1.SIDE-A_3 師匠とその師匠
吹華銀凛。二〇歳。
稜華芸大音楽学部・共創知能学舎の二回生。
僕は彼女のことを、こころのなかで勝手に師匠と呼んでいた。
共創家を志した一年前から、ずっと。
無邪気だった。傲慢だった。でも、別に悪いとは思わない。
彼女はこの一年だけでも、クラウドミュージッキングのコンペティションに数えきれないほど参加し、僕のお小遣いの一千万倍くらいの賞金やギャラをかき集めていた。
稜華芸大大ホールでの彼女の演奏は、全世界に生中継され、リアルタイムで観覧した人数だけで、下手な政令指定都市の人口より多かった。
そんな人間を恐れ多くも師匠呼ばわりとは!
ともあれ僕は、弟子としての自覚を深く持ち、師匠について知りうる限りのすべてを知ろうと努力した。
ライブや対決の模様はすべて動画や仮想現実メディアでチェックした。
彼女の著作やインタビューはすべて読み、ちょっとしたSNS上での発言もすべて控え、創作に関わる内容のものから重要度でレベル分けして、創作に行き詰まった際にはいつも読んでいた。
大事な大事な、受験勉強の一環だった。
「ただのネットストーカーやぞ、それ」
父さんにはそう言われたが。
調査を入念にやりすぎて、試験対策をおろそかになんかしていない。
断じてない。
そして僕は、「師を見るな、師が見ているものを見よ」という、芸事における金言もよく守ってきた。
師匠が影響を受けたという作品――音楽に限らず、映画、小説、漫画、ゲーム、その他のあらゆる没入型コンテンツなど(お小遣いの許す範囲で)は必ずチェックした。
特に重要だったのが、師匠のそのまた師匠である、
彼は、共創を音楽ジャンルとして確立した立役者であり、パフォーマー、クリエイターとしての技量もさることながら、音楽に関するシステムやサービスの設計についても一家言ある男だった。彼の設計思想を取り入れたサービスが、今も世界中で稼働している。
*
この場にいるほぼ全員が、おそらく師匠と桐澤のことを知っている。この二人に影響されなかったやつ、憧れなかったやつなんていないだろう。
そして、みな一様に打ちひしがれている。大きな壁に阻まれて。
その壁を構成しているのは、偉大な先人によって洗練されすぎたが故の、共創という音楽の難しさ。
評価システムの残忍さ。
そして評価システムが参照する、音楽の歴史と言う名の、膨大な蓄積。
その蓄積の中に、僕らは参加する資格すら与えられそうもない。
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