第53話 ティートの帰還の話
イーノ村ではワレリーが城壁の作成に精を出していたが、マールの道具を使ってもトゥユが戻って来るまでに終わる気配はなかった。
「時間がないのを言い訳にする事はできるが、国を立ち上げた時に攻められてしまってはその言い訳も何の役にも立たんな」
ワレリーの見立てではもう一年足りないと思っていた。その時、急に兵たちが声を上げ始め、何かと思って声のする方を向くとそこには居ないはずのティートの姿があった。
確かティートはトゥユが居ない間は魔の森に居なければならないはずで、その理由は何となく想像は付くが怖くて聞いていなかった。
兵たちがティートを歓迎し取り囲んでいる所にワレリーも向かうと、
「ティート、君は確か魔の森に居ないといけなかったのではないか?」
ティートは犬歯を見せて笑うと、ワレリーの肩を思いっきり叩いた。それは嬉しさを表す行動だろうが、ティートの力では肩が抜けそうになってしまう。
「ワレリー、久しぶりだな。俺様が居なくて寂しかっただろう。だが安心しろ、まだ二週間ほどしか居られないが、一週間ほど魔の森に戻ればまた戻って来られる」
どうやらティートは瘴気の制御ができるようになり、二週間滞在して、一週間魔の森に戻るを繰り返すと言う事ができるようになったらしい。
「トゥユに言われた城壁作りか、あまり進んでないように見えるな」
ティートは何の遠慮もせず進捗の悪さを指摘すると、ワレリーとしても言い訳のしようがなかった。
「人手が足りておらんのだ。どうしても石を積み上げる作業に時間が掛かってしまってな。申し訳ない」
ワレリーが頭を下げるが、ティートはまるで気にする事なく、
「それじゃあ俺様が手伝ってやろう。ちょうどいい運動にもなりそうだしな」
そう言ったティートは近くにあった成形された石を軽々と持ち上げると城壁に積んでいった。その早さは道具を使って積み上げるのより数倍もの早さだった。
その様子にワレリーはこの早さならトゥユが戻って来るまでに終わるのではないかと希望を抱かずにはいられなかった。
「あーっ! アンタ何でここにいるのよ」
誰にも気づかれず近寄ってきていたロロットがティートを見つけると声を上げた。ロロットは城壁の作業で怪我人が出たと聞いたので来てみればティートが居たので思わず声が出てしまったのだ。
「なんだ、お前か。俺様がここに居て何か拙い事でもあるのか?」
ティートがロロットの傍に行き、顔を近づける。普通の者ならそれだけで腰が抜けてしまってもおかしくないが、ティートに慣れてしまっているロロットはそれ位では怯む事は無い。
「アンタはトゥユに魔の森で大人しくしていなさいって言われたでしょ。トゥユとの約束を守らなくて良いの!?」
「ガハハハッ、トゥユとの約束は魔の森に行く事だ。ここに戻ってきて駄目だとは一言も言われておらんぞ」
確かにティートは瘴気の事もあり魔の森に行くように言われたが、イーノ村に来るなとは一言も言われていない。それはトゥユをもってしてもティートが瘴気を制御して魔の森から出られるようになるとは思っていなかったからだ。
正論を言われてしまったロロットは反論する事ができなくなり、鼻を鳴らして顔を背けると、怪我人の所に歩いて行ってしまった。だが、その顔は何処か嬉しそうで決して怪我人の前では見せられないような顔だった。
それから二週間イーノ村に滞在し作業を行い、一週間魔の森で休むと言うティートの手伝いもあり、城壁の作成は順調に進んでいった。
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