第45話 レリアの話


 レリアはトゥユが村を出て行った後、村長から人をまとめる方法を聞き出そうと村長の部屋を訪れていた。

 レリアは生まれてから人の上に立った事がないので、国を作るにあたってどのようにしていけばいいか相談しているのだ。


「村長さんはどうやって人をまとめる事を覚えたのですか?」


 レリアの率直な質問に村長はなんて言って良いか困ってしまう。村長も最初から村長をやりたかった訳ではなく、レリアが生活できる場所を作る目的で村を作り、流れで村長になったからだ。


「儂の場合はレリア様を育てるのが目的で、村長は他の者がやらんかった事と、王国での立場が儂が一番上であったと言うのがあるからのう」


 そうは言いつつ村長はこれまでの事を思い出し、どうやって村をまとめて来たかを思い出す。


「儂の場合はまず役割を決めたのう。一緒に来た者の得意な事をやってもらい、それを他の村に売ったりして資金を稼いでいたのう」


 レリアは成程と頷く。だが、今いる人の役割はトゥユが全て仕切ってしまっていたため、今できる事はないがしっかりとノートに書き留める。


「他には何かやっていた事ってありますか?」


 順調に情報を得られた事で、レリアは身を乗り出して話を聞く体勢を取るが、それ以上村長から情報は得られなかった。


「昔のレリア様は本当に腕白で……」


 何故なら村長が昔の事を思い出してレリアの小さい頃の話を始めてしまったからだ。

 こうなると昔から村長は話が止まらなくなってしまい、レリアが何時までおねしょをしていたとか触られたくない過去を語り始めるため、レリアはそっと席を立って村長の家を出て行った。


 村長の家を出たレリアは村を歩いているとワレリーとすれ違った。

 村の防衛施設の建設をトゥユからお願いされているワレリーは、なにやら図面を持ち部下と話しながら村の外に出て行った。

 レリアとワレリーは今までそれ程多く会話を交わした事がなかったが、レリアは隊長の地位に着いていたワレリーなら何か良いアドバイスが貰えるかも知れないと思いその後を付いて行った。


 ワレリーは村の外に出ると図面を見ながら部下に指示を行っており、村を囲むように外壁を作成しているらしい。

 時折響く声の方に目を向けると、上半身裸になりながら城壁を作っているワレリーの部下が目に入った。

 男性の裸をあまり見た事のないレリアは背徳感に襲われ、男性から視線を逸らしてしまった。


「良し! 休憩だ! 少し休め!」


 ワレリーが休憩を宣言すると、部下はその場で腰を降ろしたり、水を飲んだりして各々休憩を始める。休憩を命令したワレリーがこちらに来た所を見計らいレリアは声を掛けた。


「ワレリーさん、少し聞きたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


 レリアがワレリーを呼び止めると、ワレリーは驚いたような顔をした。


「大丈夫ですけど、レリア様が俺なんかに何か用でもあるんですか?」


 今までそれ程話した事もないレリアに呼び止められた事でワレリーは何か拙い事でもしてしまったのか不安になる。


「いえ、用と言う事でもないのですけど、少しお話を伺いたいと思いまして……」


 ワレリーを下から覗くような感じで上目遣いになったレリアにワレリーの心臓は今までより早く動き始めた。


「い、今、部下に休憩を出した所なので、お、俺で良ければ何でも答えますよ」


 少し吃りながらも快く了承してくれたワレリーにレリアが「ありがとうございます」と笑顔を向けると、ワレリーは顔を真っ赤にしてしまった。


「ワレリーさんは今も隊長として部下の方を率いていますが、何か気を付けている事とかってありますか?」


 ワレリーは一瞬、何を言われているのか分からなかったが、すぐにトゥユがレリアに戻って来るまでにやっておいてと頼んだ事だと分かった。


「そうですね。気を付けている事はあるんですが、俺がやっているのは主に戦術をどうするかって事で、レリアさんがやろうとしている統治や戦略とは違うと思いますよ」


 戦略やら戦術やら難しい事を言われても良く分からないレリアはアドバイスなら何でも良いと貪欲に教えを乞う事にする。


「それでも良いですからご教授お願いします」


 レリアが頭を下げてお願いすると、ワレリーは「教えますから、頭を上げてください」とレリアの頭を上げさせた。


「俺が何時も部下に言っている事は死ぬなって事ですね。生きるためならそれが多少隊規に反する事でも許容しています。ただ、後で罰は与えますがね」


 照れ笑いをするワレリーだが、レリアはその顔を見る事もなく、ワレリーの言葉をノートに書き留めて行く。


「ごほん。後はですね、緩める所は緩めて、締める所は締めるって感じですかね」


 ワレリーの言っている意味が良く理解できなかったレリアは小首を傾げる。


「隊を率いているので、ずっと締めていた方が良いのではないですか?」


「そう言う訳にはいかないんですよ。ずっと俺が険しい顔をしていたら部下は俺がいる間ずっと緊張してしまうし、気軽に話しかけられる雰囲気を出さないとなかなか心を開いてくれませんしね」


 ワレリーは最後に「その使い分けが難しいんですけどね」と付け加えると人差し指で頬を掻いた。


「ありがとうございます。何か重要な話が聞けたように思えます!」


 レリアは頭を下げてお礼を言うと今の事をまとめるため村長の家に走って戻った。

 ワレリーはレリアの初々しさに自分が初めて隊長になった頃を思い出し、「頑張るか!」と気合を入れて指揮を取りに現場に戻った。


 レリアは自分の部屋に戻ると書き留めたノートを開き、自分の思い描く王の在り方を想像する。

 レリアの頭に浮かんだのは、時に厳しく、時に優しく、住民の皆と一緒になって喜びを分かち合い、国を盛り上げていく王の姿だった。

 そこにはレリアが国を作ろうと思った時の原動力となった復讐の感情は一切なくなっていた。


「あれ? 私、革命軍が憎くて国を作ろうと思ったのにどうして……」


 それはレリアにも分からない変化だった。だが、この変化はきっと良い方に向いていくとレリアは信じていた。

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