第43話 エルフの誘い話


 近くの森に来たトゥユは滝壺を見つけるとエルフに水浴びをして来るようにお願いする。その間にトゥユは急いで帝都まで戻りエルフのために服と帽子を購入してきた。エルフは真新しい服と帽子を身に着けるとそのサラサラとした着心地に涙が出る程喜んだ。

 エルフは体を洗った事によって服から出た白い肌を惜しげもなく晒されているが、黒化病を装った場所は幾ら洗っても完全には落ちず、手だけが少し黒かった。帽子はエルフの特徴である耳を隠す為で、これですぐにエルフとは分からないはずだ。


「開放してもらった上に、こんな服まで貰ってなんてお礼を言って良いのか……」


 エルフがお礼を言うが、トゥユはお礼を言われるためにやった訳ではないので特に気にする様子もない。

 トゥユは落ち着いて話をするため、近くにあった石に座ると、エルフも向かい合うように石に座った。


「私はトゥユ。旧王国軍の兵士で今は旅行のために帝国を見て回っている所よ。貴方の名前は?」


「私はナルヤって言います。助けてくださって有難うございます」


 何度目かのお礼をナルヤは言うが、トゥユは「気にしないで」と言うと話を続ける。


「ナルヤさんはどうして黒化病を装ってたりしていたの?」


 ナルヤは最初言い難そうにしていたが、自分がもう奴隷商に襲われる事が無いのを思い出し、口を開いた。


「実は、奴隷商の男に言われて黒化病を装っていたのです。貴族は病気のない健康な人を買っていくので病気を装っていれば貴族には買われないのです」


「何で貴族に買われないようにしていたの? 貴族ってお金持ちだから買って貰った方が良いんじゃないの?」


 トゥユは貴族に買ってもらっては困る理由が分からず、首を捻っている。


「貴族に買われると、さっきのように私を取り返す事ができないからです。ただのお金持ちなら先程のように奪い返してしまえば、また私を売れますが、貴族ではそうはいかない。貴族は面目を潰されたと思って奴隷商を潰しに来ますから」


 トゥユは「なるほど」と思う。貴族以外の者なら売った後に先程のように奪い返し再び売れば何度でも利益が上げられる。

 もし、買ったお客に何かを言われても、知らないと白を切るか、十分利益が上がった後なら他の奴隷商に売ってしまえば良いわけだから貴族に一度だけ売ってしまうより、利益が上がるのだ。

 その理由もあってナルヤは手を黒くして黒化病を装い、トゥユが来た時に買わないように目で訴えていたのだ。


「なるほど。色々な事を考えて商売しているんだね」


 トゥユが変な所で感心するが、当然違法である。ただし、奴隷商もその辺りは承知しており、役人にお金を握らせ黙認させている。


「話が聞けて良かったよ。じゃあ、そろそろ私は行くね」


 トゥユはナルヤが黒化病でなかった事の理由が聞けたので、それだけで満足をし、石から腰を上げるとウルルルさんに騎乗しようとする。


「ちょ、ちょっと待ってください。私はトゥユ様にまだ何もお礼をしておりません」


 ナルヤは助けて貰ったのに何も恩返しをしていないのが自分の中で許せなかった。


「さっきも言ったけど、お礼も何も要らないわ。私はナルヤが買われたくない表情をしていたからそれが気になってナルヤを買ってみただけ。だから何も気にする事は無いのよ」


 トゥユがウルルルさんを歩かせようと腹を蹴った所でナルヤが叫んだ。


「あの! 私の故郷に来ませんか!? 何もない所ですが少しはおもてなしができると思います」


 トゥユはウルルルさんを止めると、少しだけ考えるとナルヤの方を向いた。


「ナルヤの故郷って何処にあるの? 道案内はしてくれる?」


 トゥユが聞くとナルヤは嬉しそうに何度も頷き、


「私の故郷は王国から見ると帝都の一番奥にある森に有ります。もちろんそこまでの道案内は任せてください」


 ナルヤが指を指した方を見ると、遠くに山が見えた。トゥユとしてもまた迷ってしまって時間を使う事を避けたい所だったのでナルヤの提案を受ける事にした。


「じゃあ、よろしくお願いするわ。後、私の事はトゥユで大丈夫。様なんてくすぐったいもの」


「ありがとうございます。私もナルヤで大丈夫です。道案内は任せてください。」


 トゥユとナルヤは握手をするとナルヤの故郷である森に向かって歩き始めた。

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