終話 山口晴樹
ぼろ雑巾だ。
やはり頭はぱっくり割れていて、脳内も出血し放題だったらしい。
呂律も覚束ない。
後遺症が遺ると医者は言っていたが、それは俺が障害者になると言うことなのか?
そうなのか?
やはりご近所付き合いなどするもんじゃない。
身から出た錆だが、退院後、下手したら志村から慰謝料だなんだと持ち掛けられるかもしれない。
妻を寝取り、愛犬も轢き殺したことになっている。
もうどうにでもなってくれ。
取れるものなら取っていって構わない。
もう懲り懲りだ。
職場に復帰出来たら地方に飛ばしてもらおう。
美希には俺が部長に昇進したら一緒になろうと息巻いたが、あいつとはもうどちらにせよ終わりだと思う。
医者にそれとなく聞かされたが、俺以外の三人とも(志村は比較的軽症らしい)散々な状況らしい。
中里については一時は肺に血が溜まり生死を彷徨ったらしい。
まあそれは俺も似たようなものか。
お互い散々だな、中里さんよ。
俺はあんたの嫁は喰ってないが、あんな嫁だとおちおち家も空けられないな。
俺に気があった様に見えたが、大丈夫だ、もう俺はしばらく厄介事は御免だ。
それから美希よ。
お前顔面がおっ潰れたらしいじゃないか。
そのせいじゃないけど、すまん。
退院したらもう会わないと思う。
コンコン
個室の戸がノックされた。
『はい。』
今は返事をするのも億劫だ。
『どうですか山口さん。体調は?』
五十絡みと思しき医師が尋ねる。
『はあ、あんまりですね‥‥。』
体調も何も分からん。
何よりあの食中毒はなんだったんだ。
大分マシになったが、ここ数日流動食しか腹に入れていない。
『顔色はまあまあですね。』
医師は俺を覗き込む。
『はあ…それより、いつぐらいに退院出来そうですか…?』
俺は声を絞り出す。今はそれしか気になることが無い。
『大変申し上げにくいんですけどね。』
医師は頭をぼりぼり掻いている。
『はあ?』
後遺症の話か?そうなのか?
『貴方、胃癌の末期ですよ。』
時が止まった。
『……は?』
思考も止まった。
ミニマムストーリー 大豆 @kkkksksk
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