第14話 中里織絵
『ちょっとごめんなさいね!』
『失礼しますね!』
志村に続きうちの旦那が強引に山口を担ぎ始めた。
志村が山口の両脇に手を入れ、旦那は両膝の裏に手を入れて担ぐ様だ。
『ちょっ!…ほんとに……やめっ!』
山口は抵抗する。
うちの旦那もちょっとおかしいくらいの熱量だがこの山口も何故にここまで抵抗するのだろうか?
車に何か隠しているのだろうか?
にしても先ほどから、もう吐く物がないのだろう、胆汁を吐いている。
本人は休めば治ると思っているのだろうが、ほっとけば脱水で昏倒するのがオチだろう。
それも嘔吐物と下痢便に塗れて。
それ程までして何を隠したいのだろうか?
まさかとは思うが…
山口の奴、私同様ご近所不倫してるのか?
座席に何か隠してるんだろ?
美希だろ?そうなんだろ?
そう思うと私はたまらなく可笑しくなった。
だってそうでしょうよ?
うちの旦那は私の私生活に疑念を抱いてる。
看護師なのだから夜勤や遅番早番があって不規則な生活になるのは当たり前で、旦那として把握しきれない時間帯が多すぎるのは分かる。
それで、私は不倫を疑われている。
実際しているのだが。
そして山口は山口で恐らく美希とデキている。
何やらこんがらがりそうだが、この男共の不審なやりとりの背景はきっとそんな所だ。
旦那は、山口の車を調べて不倫の証拠を掴みたい。
ナビの履歴でも見るか?
浅はかな…
ナビなど必要ない所にホテルなど腐るほどある。
事実私も誠とそこで逢瀬している。
誠は、良い。
ぱっと見、鈍感な男に見えるが、
実際そうである。
が、そこがいい。不倫にのめり込みすぎると多少なりとも所有欲が生まれ、束縛したがる男は多い。
だが全ての感情が鈍く出来ているであろう誠はそれがない。
良く言えばドライだ。
そして何よりサディスティックな責め方をしてくれる。
旦那とはもう一年以上「ない」が、脱げば私の胴体部には無数の痣がある。
正常位に始まり終わる旦那のそれとは物が違う。
ここは一つ旦那には山口と私を結びつけたままでいてもらおうか。
誠との仲を疑われたら何処かしら綻びを見つけられ、そこから不倫がバレる可能性がある。
しかし山口を疑いつづけていれば何も見付からない。
「俺の勘違いだったか」
と旦那は観念するだろう。
そうと決まれば
『山口さん!大丈夫だからね!?』
私は差し迫った演技と声色で山口の身を案じるフリをしてみる。
『いや…あの…』
担がれた山口は何か言い出したが、私は構わず山口の手を握った。
『大丈夫!すぐ良くなりますから!』
その時旦那から殺し屋のような目を向けられたが無視した。
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