第13話 志村誠
俺は中里に話を持ちかけることにした。
肩を叩き、耳打ちした。
『もう、埒があかなくないですか?』
『はあ、この頑固じゃどうもね…。』
『この際どうですか?もう強引に担いでいきましょうよ。』
『えっ?』
中里は少し笑ったが満更でもなさそうだ。
『嫁はああ言ってますけどね、ぶっちゃけ息子も心配ですし。』
口から出任せだ。息子は俺似である。今頃、普段は美希によって制限されているパソコンでゲーム三昧でウハウハだろう。
『ですよね、じゃあもうガッと担いじゃいますか?男二人で。』
『そうしましょう。』
俺のこれからの予定はこうだ。
病院に行く。とっとと山口を医者に投げる。女二人は車で待機。
その間中里と更に距離を近づける(元々そのためのバーベキューだったがこの山口と言う馬鹿がぶち壊した)。
そして砕けた感じにこう言う。
「僕最近動物轢いちゃいましてね。」
そうするとこいつも同調して吐くのではないかと思う。
「えっ?僕もですよ。かわいいわんちゃんを。」
バーベキュー中にこの一言を引き出してもよかったが、さすがに遊びの真っ最中に告白されてもこちらとしては気が気でなくなる。
当初の計画ではバーベキューで情報を集めてその帰路で切り出すつもりだった。
そもそも俺が容疑者を二人に絞ったのは息子の証言だった。
「ラブが黒いワゴン車に轢かれた。」
ある日の夕方頃、いやもう19時ほどだったかもしれない。薄暗い中息子にラブを散歩させた俺が間違いだった。
この住宅街一角を散歩させるくらい任せてみてもいいか。
それが甘かった。
息子とラブは住宅街の狭い道を歩いていたが、後方から迫る車に気づかず、そしてラブは轢かれた。
息子にナンバーや車種を聞いても埒があかなかった。
ただただ「黒いワゴン車」だそうだ。
この一角、ワンボックスカーに乗るよう若者は我々だけだ。
しかし間の悪いことに、山口の愛車が黒いベルファイア。
そして中里家は黒いヴォクシー。
どちらも子供目には黒いワゴン車だ。
息子に実物を見せ「どっちの車だ?」と尋ねても分からなかった。
個人的には6:4で中里だと思う。
こいつは実に短気な運転をする。
以前、俺とは気付かずにだろうが中里に国道で煽られたことがあった。
そして先ほどからのやりとり。
こいつが疑わしい。
とりあえず、何よりも山口を運ばなくては。
『ちょっと山口さん、ごめんなさいね!』
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