第9話 中里織絵

言おうか、言ってしまおう。


『あの…。』

私は律儀に挙手にて主張した。

『山口さんが車に他人を乗せたくない理由は色々あると思うんですけど、ただこの膠着状態が良くないと思うんですよね。やっぱり、山口さんの車で来ているわけだし。このまま待っても回復すると思えないので、そうなるとここでずっと立ち往生してるのも…。』


正論を言ったと思う。

大の大人が、車に乗せたくないだなんだ、大体なんでこんな日に食中毒なんかになるの?

 

私の持ってきた野菜のせい?

いやそれだとしたら皆も条件は同じだ。

美希なんか野菜を中心に食べていた。


酒の飲み過ぎ?

いや、山口はハンドルキーパーだ。

飲んでいたのはノンアルコールだ。


『少し休めば平気ですから…。』

山口は食い下がる。


『いや、少し休むって言ってもなんだかんだもうすぐ5時じゃないですか。帰りが遅くなると志村さんちも、子供さんいるわけですし。』

他人を出汁に使うのは気が引けたが、志村とて早く帰りたいのは同じだろう。


『うちは、息子は別に…お留守番も出来ますから。』

と美希。


こいつ正気か?

空気の読み違えも甚だしい発言だ。

大体息子は七歳だろう?


(なんなのよ本当に全く…。)

歯軋りしたい気持ちを抑えた。


今夜は夕飯は簡単なもので済まして、夜は彼とお楽しみタイムにしようと約束していたのに。

(もう、当の貴方も何黙ってんのよ!!)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る