第2話 中里毅
チャンスだと思った。
一度この男とは二人きりで話す必要があると思った。
『食中毒かなんかですかねえ?』
俺は山口の背中をさすりながら、誰ともなく言った。
今日はご近所付き合い大好きの志村夫妻の発案で、郊外までバーベキューに来ている。
山口のワンボックスカーに乗り込み○県の田舎へ来た。
志村夫妻、俺たち夫婦、そして山口の五人での会だ。
この糞野郎。
メガバンの課長だかなんだか知らないが、自身の不貞に天罰が下ったのだこれは。
『本当に、病院行きましょうよ?』
もう一度促す。
『…ちょ、1回吐いてきます。』
山口は便所へヨロヨロと走った。
『大丈夫ですかね?あの感じ。』
志村家の主人、志村誠が言った。
『食中毒ですよきっと。』
妻、織絵が同意を求めるように言う。
『良かれと思って企画したんだけど、こんなことになっちゃって…,戻ってきたら僕が病院に連れて行きますよ。』
志村が言う。
何を言い出しやがる、余計な事を。
中里は内心、志村に毒突いた。
『いや、僕はこの辺営業で来てるから土地勘あるんで!そこは任せてください。』
この役は渡せない。この機を逃したらあの男と二人きりで話す機会などない。
中里は営業と言う文言を口から出任せで滑らせたが、実際は医療機器メーカーに勤めてはいるものの総務部だ。
それを唯一知っている妻から空気を読まないツッコミが入らなかったのは幸いだ。
と、そこへ山口が老人のような足取りで便所から戻ってきた。
『あ、お帰りなさい』
妻の織絵が山口に声を掛けた。
なにがお帰りなさいだ、普段はもっと砕けて話しているんだろう?
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