対応会議 Ⅰ
カラスの行水ではないが、手早く汚れを落としたミコトはゲリ、フレキと共にすぐ戻ってきた。
ちなみに、動物のシャンプー後はしっかりとした乾燥が重要だ。
シャンプーで皮膚を守る皮脂のバリアーが消えたというのに自然乾燥をすると、毛皮の根元ではいつまでも蒸れて雑菌が繁殖してしまう。結果、皮膚炎になるというパターンがあるのだ。
ドライヤーでの熱し過ぎもいけないが、自然乾燥もいけないということで二頭はリビングに張られた結界内で適度な温風に吹かれている。
元々、小難しい話の時には寝こける二頭なので特に問題はないだろう。
改めてアルヴィンや竜騎衆と卓を囲んだミコトは表層世界でのあらましを伝えた。
「――ふむ。つまり、あちらでは何者かが幻想種の素材を何かに利用しようと一か所に集めている。その地域で神仏に近い幻想種の気配を感じ、土砂災害も起きていた。そして最後には月の満ち欠けにまで異変を起きていた、と?」
「あと、あの土地では最近、小規模ながらも地震が続いていたそうです」
後でオペレーターから聞いた話も補足するとアルヴィンの表情が珍しく曇る。
全てが繋がっているかといえば、それは怪しい。かといって、これだけのことが何の繋がりもなく同時期に起こるとも考えられないだろう。
話を聞いたグランツも眉を寄せる。
「おいおい。そいつぁまた下手すると神話の何かが関係するってことかい? 流石に政治家共が騒ぎ出しそうなもんだ」
彼が口にした展開が最も恐ろしいパターンだ。同じ予想をしていたミコトは頷きを返す。
表層世界の基本スタンスは封律機構なんてものを置いて付き合っているとおり、無理のない範囲で有効利用しようというところだ。こういう事態はその一線を越えさせかねないので非常に困る。
ミコトは大きくため息を吐いた。
「逆に、一番楽観視した場合は密猟品の集約は偶然。新しく建った神社への信仰で神様が生まれ、御しきれなかった力のせいで地震や月の異変が起きたなんてことになりそうなんですけど――これこそ現実的な話ではないですよね」
あくまで仮定の話だが、その結び付け方が強引なのを周囲も感じていた様子だ。
最もおかしいのは、地震と月の関連性である。
「そもそも、大地と月に関連を持つ幻想種というのは聞き覚えがないですよね」
「ええ。同一視されにくい要素である以上、一般的ではないでしょう」
自分の記憶の範疇で語ってみると、アルヴィンも同意してくる。
幻想種というのは大抵、大昔の人の主観や風習が影響を及ぼしている。
例えば火山を象徴する神なら火山そのものや炎の他、稲妻など同時に見られるものと結び付けられるものだ。
月の満ち欠けが地震に影響を及ぼしているのではという研究も最近出てきたくらいで紐づけられた神話というのは聞き覚えがない。
「月が欠ける――月食といえば何かが食ったとするものが多いですね。インカ神話ではジャガーが月を襲って食べたとされたから人々はそのジャガーを地上まで招かないように槍や犬で威嚇をした。その他には古代メソポタミアで七人の悪魔が隠したという話。北欧神話でハティが月の神マーニを食った話」
数々の逸話を吟遊詩人みたく弾き語りをしてくれたアルヴィンは竪琴こそ手には持たないが、抑揚をつけて語る。
その話題には同じ北欧神話出身であるゲリとフレキが過剰に反応を示した。
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