事務連絡
土砂崩れ現場を離れた後、ミコトたちはすぐにグウィバーとの合流に向かった。
事前に打ち合わせなんてしなくても彼の魔力を追跡すればいいだけなので追うのは容易い。どうやら彼は避難場所にもならない小さな神社に身を隠したようである。
サイズ比は犬と犬小屋のようだ。
目立たぬよう、境内の端でお座りをしている彼に声をかける。
「倒木の処理をありがとう。変に注目を浴びなかった?」
「翼で風を起こして意識を逸らさせた。突風と同時に倒木が崖下へ落ちたとしか記憶に残らなかっただろう」
「変な騒ぎは生まれてなかったし、それなら大丈夫そうだね」
「して、このまま帰るか?」
まだそれほど時間は経っていない。急げばベネッタに追いつくことも可能だろうか。
そう思いはするのだが、ミコトは手を合わせてグウィバーに頭を下げる。
「ごめんね、グウィバー。師匠へのお土産を買わないといけないからちょっとだけ待ってくれる?」
「ベネッタとの別れは済ませているでな、案ずる必要はない。それに、もう一つ気がかりもあろう?」
彼の問いかけに、ミコトはこの街に来た際の違和感を思い出す。
「それもあるね。至竜は土砂崩れ現場で想い人を庇ってはいたけど、他に力は裂いていなかったの。街の地中に感じたものについてはわからずじまいだね。封律機構に電話だけは入れておこうと思うよ」
「それが良かろう」
グウィバーが頷く。
確かにミコトやゲリ、フレキは大抵の状況に対応できるものの、専門的な能力者には劣ることだってある。索敵能力は高くとも、痕跡から何が起こっていたのか調べる操作能力なんてほぼないに等しいのだ。
あちらの耳に入れていれば協力体制としては十分だろう。
ミコトは与えられている携帯端末を取り出した。
『――何かありましたか、ミコトさん?』
もしもしと呼びかけることもない。登録されている番号からこちらをはっきりと認識したオペレーターが応答してくる。
「今日、至竜が想い人を守るためにこちらに来たので送りました。土砂崩れ現場で一名救助して、すでに搬送は任せてあります。それから、気になることが一つありました」
『お伺いします』
普段ならばこの事後連絡だけで済むところだ。伝えてみると、オペレーターは少し緊張を覚えた様子で答える。
「端末の位置情報から現在地はわかりますね?」
『はい。日本の関東にある一都市です。間違いありませんか?』
「合っています。それで、ここに来た際、地中に神仏のような幻想種の気配を感じました」
『なるほど。その地域では豪雨と一緒に小規模な地震が観測されています。土砂崩れ自体、その影響であった可能性はありますね』
雨で地盤が緩んだところに運悪く重なってしまったというところか。珍しくはあるが、奇妙というほどでもない。詳しくは機構で調べ上げ、対処をすることだろう。
『ちなみに、その気配はもう確認できませんか?』
「はい。もう消え失せているので私たちの能力では追跡できません。これから買い物をして竜の大地に戻ろうと思っています」
『承りました。こちらで調査し、対応したいと思います』
「お願いします。それから――」
『承知しています。竜の大地に害なすものであれば協力を惜しまない、ですね?』
「伝えるまでもなかったですね。毎度お世話になります」
最悪の結果にはならなかったとはいえ、今回の竜だってもっと確かな形で願いを叶えることができたはずなのだ。自然災害だったなら仕方がないが、そうでなかったとするなら許し難い。
ともあれ、事務的な受け答えで連絡は終了した。
あとはアルヴィンへの土産とゲリ、フレキへのご褒美である。
「じゃあ、すぐに戻ってくるからちょっとだけ待っていてくれる?」
「構わぬ。それより、土砂降りではあるのだ。操作を誤った車などには気をつけよ」
「うん、わかってるよ! ゲリ、フレキ。行くよ」
「わふっ!」
母のように口酸っぱく警告してくれるグウィバーに頷きを返したミコトは手近な店へと走るのだった。
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