♮309:エピローグ開始、ですけど(あるいは、やっぱり室戸ミサキの事情)
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諸々があった……モロモロとした質感の何かをこちらの精神に擦り付けてくるかのような色々が……この一日で。濃縮され過ぎて精神と時の境目があやふやになりそうなほどの時空が展開し、そして収束していった……
僕はと言うと、当事者と傍観者の狭間ほどのスタンスで臨んでいたものの、やっぱり最後はぐどぐどしい粘液絡んだ触手のような何かに、身体ごと精神ごと引きずりこまれた挙句、またもボコボコにされてしまい佇む以外のことは出来ないままそこにおったわけで……
そして、三度目も正直シメ要員以外の価値観を示せなかった哀しき壮年の絶叫により、この様々な思惑をてんこ盛りしたかの祭典は終わりを告げたのであった。
「十億」のことは何とかします、とのアヤさんのどこか超越してしまった笑みに引きずられる間もなく、僕はやっぱりだいぶ体に来ていたみたいで、サエさんと翼に両脇から抱えられつつ台場のカジノから脱出(というほどでもないけど)、そしてリーズナブルにりんかい線等を利用して無事帰宅と相成った。
てんでばらばらに逃げるようにして「会場」を去った僕たちは、本当に、その場限りの縁だったかのように、ふつりと、それぞれの「日常」に戻っていったわけで。
……そして、忙しさに全身を揉み洗いされるような毎日の中で、あっという間に二年半という年月が経過していたわけで。
「ムロっちゃぁぁぁあああん、どこ? ゲートどこッ!?」
人波が割れていくコンコースを無駄なしゃなり感をもってして闊歩するうすらデカ長い背中を何とか追っていく。本日のジョリーさんの出で立ちは骨ばったガタイにぴったりフィットする正にのセルフオーダーメイドのピンク地に白が差すフリフリのメイド服であるけど。僕らの結婚式以来だから二年がとこ振りのはずなのに、あんまりその外見も内面も僕への接し方も変わっていなくて。それが何となく心地よい僕がいる。しかし目立つな……でももう僕もつっこみ疲れが自身の体内でうず高く積まれ固まってるようになってからは、割とその辺りはスルーしている。周りのヒトたちの目も、もう何だかあまり気にならなくなってきていた。自分。自分のことは自分で決める。そう好意的に解釈すると、目の前の怪人もそれはそれでありなのかと思うようになってきていた。
それに彼女は今やファッション業界では頭角現わし筆頭格であるし、自らの露出をまったく厭わないいや逆に自分からぐいぐい行くから、割とその界隈では使い勝手が良いのかどうやらだけど、その外面含め有名になりつつある。
分刻みのスケジュールは相変わらずそうだけど、五十過ぎてなおこの
「ムロト遅い」
端末を見ながら慌てて目的場所を探していた僕だったけれど、手荷物検査の一角からそんないつもの叱責声がかかる。すらりとした
「……たー」
僕の姿を認めるや、その小さな手を振るというよりは招き刈る、みたいな感じの動作をしたのは、そのピーコートの裾にかじりついていた天使であったわけで。その絵面は何だか新鮮で、そして。
何だか神聖に見えてしまうのであった。
一歳十か月を迎えたばかりの
柔らかく、抱き上げるとずると伸びるほどにまだ不安定な体を抱きしめる。あらんムロっちゃんに似てきたんじゃなぁい、との近づいてきた奇抜顔面に小さな体が強張るのを感じつつも、づ、づひゅひゅひゅそうですかねぇいやぁ口元はサエさん似と思っているんですけどねぼひゅひゅひゅひゅとの言葉なのか何なのかの音声を返すばかりの自分でも度し難い僕がいて。
「時間」
呆れを通り越して無感情なサエさんの言葉に本能的な危機感を覚え、急いで出立の手続きへ向かう僕たちであったのである……
姫様からの御招きは、「執事さん」ことジローネットさんから為されていた。「即位の儀」。十八歳にしてえらいこっちゃと思いつつも、アフリカなんてこんな機会でも無ければ行くことなんて無さそうだしという思惑も存分に挟みながら、多忙でのびのびになっていた新婚旅行……その代わりになればと決意し、僕は店を半月休むことにしたのだった。
カタール、ドーハの「ハマド国際空港」まで一路、チャーター便という贅沢に慄きながらも、高揚感も隠しきれずに僕らは機上の人と相成ったのであった……
いざ、ボッネキィ=マへ。姫様と執事さんの祖国へ。
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