♫245:拝察ですかーい(あるいは、距離感の/縮まらない/メンタルフィールド)

 ……どういうことだ? 「サイノ」とある男の人の放ったDEPは、「自分が実は女だ」という、いや九割八分無いだろうと思わせる、簡単にもほどのある虚偽フォースDEPであったわけだけど。


 観客席も控えめなざわめき。結構な高さのあるドーム状の天蓋に、発せられている声や音が吸い込まれているかのようにも感じる。


 僕はといえば、直接対局者ではないものの頭を巡らし、この「対局」を利する制する手はないかどうか、フル回転でいろいろ考えているのだけれど。


 真意は何だ? ……初戦様子見? 相手方「フォースチーム」って、「嘘をつくのが常態」であるからして、僕ら「Tチーム」以上に評点にマイナスのバイアスが掛けられてしまうのだと思うんだけど、それってかなりの不利なんじゃないの?


 いや、そこに「明らかに嘘と思われるけど、本当は『本当トゥルー』」なDEPをカマすことが出来たなら……? それも【T☆】を使って。


 こっちの「ダウト宣告」が無ければ、おのずと評点は「2倍」となる。翼の今のが「33,000pt」ちょっとだから、「17,000pt」くらいの出来だとしても、上回られる。そこで「二勝」を取られると……かなり痛いことになる。


 とか読まれてて、向こうから「ダウト」を誘発させられての自爆を狙われたとしたら……「ダウト権」をひとつ失い、「一勝」をもかっさらわれる。その後の勝負に大きく影響を及ぼすと、考えられる。


 うぅぅぅん、考えれば考えるほどにどつぼに嵌まっていく感はあるぅぅ……でも翼がもっといい評点を得ていたらもう少し考える余地は狭まっていたろうし、弱点そこを突かれたと思えなくもない。うん、泥沼底だ、思考の。


 つまりは、翼の渾身(?)の「爛れDEP」は、「真実トゥルー」と見切られた上で、自分たちの「嘘くさい嘘DEP」にダウトを放り込んで来いと、見え見えの誘いをしているわけだ。


 だったらここは「静観」で行こう。たとえ向こうが【T】でも【T☆】でも、巻き返すことは第二戦以降で必ず訪れると信じて。逆にこの初っ端でおたおたして、挙句「空振りダウト」なんかした日にゃあ、もうそこでいろいろ負けなはずだから……!!


「つば」

「おおりゃああっ、ここで一発『ダウト』だぁああああッ!!」


 考え過ぎた。それがいけなかった。


<ダウト宣告→Fチームの出し手は【F】、よって、先ほどの先手評点が、16,791ptへとダウンいたしますッ!!>


 おーのー、という力の乗らなくなった声が僕の半開きの口から阿呆のように漏れ出るのを、自分の鼓膜が律儀に拾っているのを感じる……


<後手:17,089ptッ!! よって『第一局は、フォースチームの一勝ッ!!>


 だ、ダメだ……いちばんやってはいけない負け方を喫した……僕は白目になりそうな自分の両目を何とか抑えようと努力することしか、いまのこの瞬間、出来ていないわけで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る