♭233:露悪かーい(あるいは、世界は丸く/宙は蒼し)


 そう来たか……


 「6チーム同時突然棄権」、「対局相手組み直し」……またしても肉々ゆでたましい展開ではあったが、思えばその唐突展開いきあたりばったりに対して臨機応変いきあたりばったりで即応することが……軽々と出来てしまうほどに、この「ダメ」に関しては私、適応力がハンパなくなっているわけで。


 懸念事項であった「聡太のお迎え時間に間に合うかしらん」というよしなし事は、元夫きょうすけさんが引き受けてくれるということで解消した。


 ……うん、お迎え云々以外に、もっと大きな重要ごとがある気はあった気はするけど、そこは取りあえず置いておこう。


 現況は……元凶たる運営の唐突な宣言に、何事ぞと各チームが対局場たる会場スタジアムのフィールドへとわらわらと出て来たところであるけど。


 ……まあいいんじゃないの? 妙にすっきりとした感覚を身に帯びている私は軽やかに明瞭に、そんな風に受け流せる構えだ。身体の外側に鎧ってた土の殻みたいなものも先ほど「外力」によって突き崩され、精神の内側にすくっていた粘る澱みたいなものも先ほどとんでもない絶叫と共に体外へと大概排出された模様であるし。


 すーはー吸ったり吐いたりの空気が、やけにクリアで自分の中にも「外界」が侵食してくる感じ、って言ったら浮世離れしすぎてるか。ま、人生にまた軸足が定まった感覚……ちょっと言ってる意味は分からないかも知れないけど。と、


 わ、若草ドノ……何やらキナ臭くなって参りましたなあ……と、いや、貴方ちょっと爺やみたいな喋り方になってるけど大丈夫? と不安になりそうなほどへりくだって来るようになった主任に言う。「復讐」云々は、もちろん御膳立てまではしてあげるつもりだから大丈夫だって。


 なんか捌けた感。復縁とかは置いといても、もう一度、三人でどっか行きたいな、そしたらどこ行こっかな、そんでもって何着てこっかな、とか考えている私は、だいぶ度し難いんだろう。でも。


 喉の奥あたりで感じ続けてる甘酸っぱい感触は、私の両眉をハの字にさせ、唇をアヒルっぽく突き出させてくるわけで。失笑を恐れずに言うのなら、いま、わたしは、ときめきを、かんじている……そんな浮世離れした私のメンタルおよび顔面を現世に引き戻すかのように実況音声が響き渡る。


<……厳選なる抽選の結果ぁッ!! 新たなるトーナメンツ組み合わせはぁぁッ、こいつだぁぁぁぁぁぁあああッ!!>


 やっぱ実況ヒト代わってるよね、ま、それがどしたってわけだけど。それより、


<新決勝第一試合:サイノ+ワカクサ VS ミサキ+ツバサ>


 うんうん、やっぱ露骨に「こっち側」をぶつけてくるよね……いっそ清々しいわ。でも、どの道、ひとチームしか残れないんだから、順番はほぼ関係ない。


 私は、私の愉悦、狂気、あと何かに色付けされた顔面の皮膚を遠目に見ただけなのにガタガタと震え出す「少年」くん二人の方を、顔力ガンリキを130%くらい解放させながら見やるのだけれど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る