♭224:細粒かーい(あるいは、光/パラノーマル/センシビティ)


 もう限界だった。昂りすぎてどうにかなってしまいそうだった。


「……聡太を、キミを、手放してしまったのは私の不徳ッ!! だが失ってから、そこから!! ずっと考えていたんだ……それだけは本当だ。本当のことなんだ……ッ!!」


 こんな状況シチュエーションじゃなかったら。あっさりさっくり呑み込めてしまった言葉だったのかも知れない。この異常なる場で、異常なるテンションにて受け止めたがために、「嘘」までは行かないんだろうけど、言った本人でも認識が及ばないレベルの「嘘くささ」が浮き彫りになっていた。


 ……それには感謝? ……いやよく分からんけど、優しい嘘に、絡め取られてしまった方が、人間は幸せに生きられるのかも知れないけど。


 数多のダメ人間たちと対峙してきた私には、そして自分の中の幾つもの「ダメ」を吐いて吐いて吐き戻してきた私には、それを是としない人生のベクトルが、魂の底で突っ立っているわけで。


「本当の本当に……終わりにしましょう。恭介さん、貴方と出逢えたことは本当に良かった」


 これも「嘘」じゃないけど、限りなく表面をなで滑るレベルの「嘘くさい」言葉ではあったけど。凪いでいく私の心には、嘘偽りはなさそうな気がした。


「わか……くさ……私は……本当に……」


 私のその表情とか諸々に、何かを悟ってしまったかのような、恭介さんの声が震える。うん……そうだよ、もうダメなんだよ……私たちは。と、


「……その辺りで若草クンを解放したまえ、それ以上は見苦しいぞ」


 忘れかけていた主任の声が、低くも響き渡る。忘れかけていた、そんな昭和メロドラマチックな感じで。そうだよ、私はこの主任と共に莫大なカネを得る。それからのことは、それから考えるまでだ。


 と、そんなことを考えていた、その刹那だった。


「……!!」


 いきなり頭突きをかまされたかと思うほどの急な動きで、眼前の恭介さんの顔が迫ってきた。やばい……ッ!! とふいうちにまったく対処できてなかった私は、面食らって体を硬直させてしまうのだけれど。


 次の瞬間、来たのは、唇への熱い感触。


 な、なんでぇッ……とか、混乱する暇も無かった。私の委縮してるだろう唇の間も歯の間も割って、獰猛な熱い塊が、私のそれを絡め取ろうと躍動してきたわけで。


 ええええええええッ!? 何これなにこれぇえぇぇぇぇええッ!? と柄にも無く躊躇したふりをしながら、昂りまくってしまう私を、冷めた目で俯瞰している計六名を、さらにの上段から眺め降ろしている自分も感じる……


 意識の「入れ子構造」みたいな、その時点で私のキャパをまたぎ越えた衝撃がいま、この滾り滾りまくった場にて、あらゆる感情を消し飛ばすかのような勢いで巻き起こっているのだけれど。


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