♭219:連綿かーい(あるいは、かたちなき/ゆえにとうときもの)
「……」
全身を硬直させたまま、パネルの上にごろり転がされるようにして突っ伏す恭介さんの姿を、私はと言えば、唖然として見送るというようなことしか出来なかったわけで。
「嘘は御法度」……それはこの「ダメ」の大前提だ。でもそれをかいくぐる術があるということは、分かっていた。それは私の「虚偽人格」であったり、姫様の「言語解さないがゆえに嘘と自認できない」ことであったり。
でも、いま目の前のこの人は、喰らった……電撃を。なぜ? ……「私を愛しているということは嘘」ということを、多大な代償を払ってまで、伝えようとしてきた。なぜ?
「……私は、人の愛し方というのが、はなからもとより、分からない。分からないんだ……」
衝撃でがちがち歯を鳴らしながらも、床にへばりつくように無様な姿を晒しながらも、恭介さんは、泳ぐ私の目を下からしっかりと見上げながら、そう絞り出すようにして言葉を紡いでいくのだけれど。
「……そんな私が、側にいてくれるだけで、仕事や家系のことなどを忘れさせてくれるヒトに巡り合えたんだ……それがキミだ、若草キミなんだ……」
時間も空間も超えて、たった今この場所で、
胸が苦しいんだよ。
「……結局私は、体のいい『精神安定剤』だったってわけ。笑わせるわ。そして後継ぎを産ませる装置でもあったってわけ。ふざけんなよ? でもまあいいわもう。そんなこと言い出したらきり無いし。私だって貴方の財力目当てで近づいた、狡猾な女狐だったわけだし。おたがいさまよ」
感情が漏れ出ないように、細心の注意を払いながら、私も紡ぐ。何の意味もない、ただの音節の連なりを。喉元が震えるたび、どんどん温度を奪われて冷え切っていくような錯覚を感じている。
「でもね……こんな私でも、聡太を愛しているとは言い切れる。血が繋がってるから、そうかも知れない、それだけかも知れない。でも、今の私にとってはそれが全部。だから……だからッ、あなたには渡さない。奪うんだったら、私を殺して奪え」
吐き出した言葉に自分でも現実味は感じられなかったけれど、「嘘」ではないことは、電流が発動しないことが証明している。実際そうだ。聡太のいない私の人生こそが、もう私には嘘っぱちに思えているんだ。だから。
「……私も聡太を愛している」
恭介さん……
「そして君もだッ!! 何度でも言う、私は、水窪若草を愛しているッっがああああああああッ!!」
またも電流が。もうやめなよ……そっちが死んじゃうかもだよ……
「たかが機械に……私のこの複雑な感情など理解できまい……いや、もとより理解など、させないッ!! 私は、ただキミが理解するまでッ!! 愛していると言い続けるだけだッ!!」
断続的に電流を喰らいながらも、全身を絶え間なく震わせながらも。恭介さんは言葉を紡ぐことをやめない。
……愛の言葉を。
「……あい……アイ……アイ……」
見ちゃいられなかった。恭介さんの身の安全を考えるのならば、ここで対局は中止させるべきだ。私が棄権したっていい。もうすべて、すべてに嫌気が差している私だから。
でも。
「あい……I miss you」
床に頬を付けて横たわり、全身の力もとうに抜けてしまっているような恭介さんの口から漏れ出たのは、そんな言葉だった。
電流は、流れなかった。
「I miss you……I miss youっ……I miss youッ!!」
掠れて小さな声だったけど、それは私の胸のどこかに確かに突き刺さっていたわけで。
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