♭216:旋風かーい(あるいは、キミがくれた/ヴェニゼロシック大噴火)
「『8八移動』からのッ!! 以下省略で『1五』へ移動だぁあああああッ!!」
気合いと、吹っ切れをかますために、私は肚からの大声をそう放ちつつ、「盤面」を蹴りつけながら走り始める。
「……」
近づいて来る私を、困惑やら驚愕やらの表情で見やってくる、取っ組み合ったままの恭介さんと主任……思考は相変わらずぐちゃぐちゃで、頭の中をゲル状のものが満ちてそれらがたぷんたぷんと右へ振られたり左に振られたりしてるような状態であるものの。
吐き出させてもらおう、とそんな結論に至った。私の中に眠る「
「……」
現・私を。今ここにいる私の、本音を臆面も無く、ぶちまけさせてもらう……!!
「!!」
……平等に。
加速がいい感じで乗った状態のまま、私は足元のパネルがたわむほどに踏み込むと、身体全体を投げ出すようにして前方へ足から突っ込ませていく。うんもう、わけは分からなかったけど、それはこの地を訪れていた時から常に感じていたことでもあったため、違和感なく呑み込めていた。というか、もう頭で考えている場合じゃねえっ。
「……!!」
私の体重の乗った両足裏は、受け身を取って次動作につなぐためのうつぶせ姿勢に移行していたために、爪先が地面を向く方向。はからずも捻りを加えられたそれらは、目測通り、右が元・夫、左が現・パートナーの顔面に着弾し、物理エネルギーを平等に与えていたのであった……
ぺとりざら、と、でんはーぐ、みたいな呻き声を上げながら、双方横方向へと組み合い姿勢のまま、とっとっととたたらを踏む二人。あわやパネル外へと転落しそうになるところを、お互いがお互いを助け合うようにして、何とか土俵際でとどまったりしてるけど。何だ、意外と息合ってるじゃないのよ。
でもかつてない「平等」感に包まれた私は、左肩からパネルに落下しつつも、ぐるりと頭を巡らせ、前転してすかさず次の行動へ。向かって右方向に
「こらぁぁああああッ!! わん
どこの郷の言葉かは自分でも分からなかったけど、魂の叫びだった。いや、あると仮定した場合の性欲中枢なるところからの、パルス化した何らかの放射だった。
ええ、そこぉ……? みたいなつぶやきを漏らす困惑顔が、その高い鼻梁下からつつと溢れ出て来た鮮赤に彩られていく。
……私も騙していたよ。貴方を、自分を、そして世界を。
真実の自分は、ダメの中に、いやダメの中にしかないのかも。だったら。だったらもうなあ……滾る「自分」に委ねて突っ走る他はねえよなあッ!!
脊髄の命ずるままに、私は次なる獲物を探す猛禽のように、しなやかな動きで主任の身体を突き放すと、「そこ」へ向かっていく。
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