♭198:泥濘かーい(あるいは、アドラマドラ/忸怩/メルクール)
はてさて。
決勝初戦。因縁の(らしい)対局がどうやら「少年」側の勝利で決したと思われた。いや、思われたっていうか、最後の方はもう死体の上でコサックダンスを舞い続けるような凄惨なモノとなっていたようにも思われたが。
時間的には十何分に過ぎなかったけど、体感的にはもう一か月くらい経ったんじゃね? と思わせるほどの濃密感を見ているこちらにも突きつけてきていたわけで。うん……何か久しぶりに視点が定まった感覚。サッカー競技場を模したこの会場は、相変わらずの大勢の観客によるうねる音の坩堝だ。
まあそんな環境にも慣れてきたか。私は凪いだテンションで、グラウンドの片隅、「選手控席」と書かれた簡易テントの下で他の参加者と共に、本革っぽいのが張ってあるディレクターズチェアにリラックスして座っているのだけれど。目の前には大型のディスプレイ。そこにはいま正に対局中の四人のバストアップ映像と、手元の「手牌」をズームしたもの、そして捨て牌の河が分割表示されている。何かこう俯瞰してみるといろいろと見えて来るものがある……各々の思惑が透けてくるかのような。監督になったような気分でいろいろと次の打牌とかを考えたりする私だけれど。
いやいや。
そこまでのんびりと構えてるわけにもいかないわー。あいだ「二試合」挟んで次は、私と賽野主任の番と相成るわけで。どうやらトーナメント最下層の「八試合」は、「少年」くんたちがやっていたのと同じこの麻雀じみたルールにて取り行われるみたい。となれば、この今の時間、何らかの「対策」を講じること、それは出来ないだろうか……
うーん、ま、戦略があるのか無いのか分からんか……「ヒキ」すなわち「ツモ運」に因るところが結構大きいか。そんな風に鼻息荒く唸っていると、
「……若草クン。次戦、僕はサポートに徹する。だからキミは親でも子でも、思う存分DEPを撃ち放ってくれ。僕をもトバすくらいの勢いで……ね?」
焼き付いた思考をどうにかしようと思っていた私に、横から低い主任の声が。ふ、と目線をやると、そこにはいつも通りの余分な力の入っていなさそうな、こちらを和ませて来る少し目尻の下がった柔和な面長があるわけで。
主任……主任はことこの「ダメ」においては、恐ろしく懐が深いところを見せつけてくるわけで。こんな……こんなのよ? とも思えるけど、いや、その深さはまだ私も計りかねている部分はあるわけで。いや、
……いろいろ詮無いことを考えても駄目ね。全力だ。いまだ私の中に何が居座っているのか分からなくて不安なとこもあるけど、それも全部出し切らないと、何と言うか意味が無いと思うわけで。はいですっ、という習い性となったかわゆい敬礼と共に、私は腹式で肚底にみなぎる熱を鼻から気付かれないように噴出させる。
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