#197:濃口で候(あるいは、メリア/メシア/サッチャォバロゥド)
何と、第一の試合が終わったようである。私も決勝へと勝ち上がりし猛者たちの「対局」を見逃さなぬよう、すべて漏らさぬよう着目していく所存であったが、その初戦……ギナオア殿・ガンフ殿組と、あの「少年」「青年」組との広義の同士討ちであるところの注目の対局は、最後は「少年」の嵐の如くの「DEP」大乱舞によって幕を閉じたようではあるが。
「……」
いや、しかし、これほどのものとは。予選の時からはあまり目立たぬ様相であったが、これほどの修羅をその身の奥底に宿しているとは……会場もあまりのことに静まり返ってしまっている。
<そ、そこまでぇッ!! ムロト選手ッ!? それ以上はダメですよ!? ダメですってば!! だれかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!>
冷静を保っていたかのように思われる実況を担いし少女の、そんな差し迫って悲痛な声が響き渡る中、当のその「少年」は上空に設えられし座席に無駄な力無く極めて自然に座って、そして自然なる笑みを、その緻密に化粧の為され金色を所々に散りばめさせた小作りな顔に浮かべている。なにか、何かを超越したような表情に思えてならない。
「これが……『浄化』とでもいうのか? 『魂の浄化』……」
私の横でそう呟いた姫様の横顔は、相変わらず表情の乏しい冷徹なものを保っておいでだが、その麗しき唇から思わず放たれたかのような御声は、どこか感心したかのような、呆れたかのような、そんなふっ、と抜けたような無駄な力の入ってなき御言葉であったわけで。
私に問われておられるのか? いや違うだろう。姫様は自分の中で咀嚼しようとなされているのではないだろうか。徐々に歓声が戻って来るこの大空間の中、私には、姫様がぽつりと独りでその場に立ち尽くされているかのような、そんな幻覚じみたものを感じているに至っているが。いや、これは何だ? と、
「ジローネットよ、今しがたのあの『少年』の『DEP』を、理解することが出来たか?」
今度こそ私に向けて投げかけられたる御言葉。光栄ではあるが、今の出来事は、私の理解の範疇を軽く凌駕している。つまりは、私の思考の遥か高みにあるのだろうか、あるいは及ばぬほどに深いのだろうか、この「DEP」とやらは……「ダメ」とやらは。
物言わぬ物体と化したギナオア殿はじめとする三名が地上に座席ごと降ろされたのち、担架にて運び出されるのを焦点の合わぬ目で見ながら、私は思考をぐるぐる巡らせてはみるものの。
「……全てを把握すること、そこまでには至りませぬ。しかし……己を開放する、その先に何かがあろうことは、この不肖なる我にも、その手触りくらいは分かろうものであり」
そんな、中途半端な言葉を返すくらいが関の山であった。しかし姫様は私の方へと一瞥を投げかけられると、何故か、穏やかなる笑みを見せるのであった……その可憐この上なき表情に、私の琴線が引きちぎられんばかりに震わせられるのだが。
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