♮193:承前ですけど(あるいは、自と他の生みし/ハイ×クロス×ブリッ×ダー)
真の。真なる。
それが一体どのようなものかは、はっきりとは分からなかった。でも、ただもう、自分の心の奥底、内の内で凝り固まっていた何かを、DEPにして撃ち放つことだけを考えていた。いや、もうDEPですら無いのかも知れないけど。とにかく心にわだかまって渦巻いて来ていた、「感情」を無理やり言語化して、えずくようにして吐き散らかしていくだけだった。
―私が一度、ブルーハワイのフラッペが美味しいって言ってから、ずっと、秋口の肌寒い時でも、おとーさんはそれを買ってくれたこと。青い色素によるものなのか、結構な寒さによってもたらされたのか分からないけど、待ち合わせ場所でおかあさんに、いつも唇が紫色だねって言われたこと。
―ほんとはパンダのぬいぐるみが欲しかったけれど、無理して抽象画の大家の絵葉書をねだっていたこと。それらも思春期のある夏の日に、突然ムカついたあまり、びりびりに引き裂いて、70秒間4色に変わる花火で、じっくりと燃やし尽くしたこと。
―おとーさんが、帰り際、いつも私のぱさぱさな髪をその太い節くれだった指で、梳くようにして撫でてくれたこと。岬はお母さんに似て強情な髪質だよなあ、と苦笑混じりで言われた言葉を誇らしげに思うと共に、いつかこの人は戻ってきてくれるんだ、とその言葉の言外のニュアンスから、そう勝手に思い込んでいたこと。
吐き出すそばから、それらの言葉の、音声の、空気の振動は、遥か上方へと吹き上げられていくようだった。高みにある天井の方へ。それを突き抜けるかのように。貫かんばかりに。
失った父性を、自分の中に組み上げていった。そんな綺麗事では、本当は無いのかも知れない。でも、僕の中に横たわるこの心情は、最早僕でさえ、うまく理で説明することなんて出来なくなっているわけで。
説明する必要なんて、ないのかも知れない。大脳で必死こいて考えても、どうとも説明できないものが、「DEP」として解き放たれていくのであれば。
全部をDEPとして吐き出した末に、残ったものが自分。アオナギはさっきそう言っていた。
共有されていくのかも知れない。そしてそれが「理解」というものなのかも。それは言い過ぎか。でも。
受け入れる。受け入れるんだ。ダメだった自分も、そうじゃなかった自分も全部、
……他には存在しない、在り得ない自分なのだから。
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