♭165:視察かーい(あるいは、聖★キマってる/ボイーズⅡメーン)


 いや、これどうなってんの。


「……バラされたか。意図的かどうかは分からないが」


 主任は既に拳銃を顔の前に立て構えて、辺りを警戒モードへと入っているけど。先ほどまで確か室内の「ホール」におったよね? 「バイザー」被って開始が告げられた瞬間、私は正にの山あい獣道に瞬間移動していた。


「……」


 いや、VRなんだろうってことは分かってる。分かってるけど、どう目を凝らしても現実にそこにあるとしか思えない質感の視界や、露出した顔に感じる冷ややかな風、そしてマイナスイオンだかがふんだんに含有されていそうな木々の、植物の葉のにおい……遠くからかすかに響いてくる鳥の鳴き声も、臨場感的奥行きを感じさせてくる。


 この技術力を然るべきコトにつぎ込めば、もっと世界は素晴らしひモノになるやも知れないのに……との思いがちらと延髄辺りを掠めるけれども、もちろん、そんなグローバルに物事を希釈しとる場合では無い。


「迂闊に動くと……敵さんと鉢合わせする可能性の方が高そう。おそらくは運営の息のかかったグルまがいの有象たちと」


 極めて的確に、現況を鑑みてのこの推察。主任の前では常にクールビューティーWAKAKUSAであり続けねばならない……


 そうだね、そして迂闊に「これ」に「充填」するという行為も……こちらの居場所をただ知らせてしまうだけのデメリットしかないと考える、と主任がこちらに視線を向けて来る。


「……最初の『充填者』の位置が割れた時点で、その周りに集団で囲い込むようにして殺到して目視で確認したのち、悠然と『充填』して360°全方位からハチの巣にする……数に任せた雑なやり方だけど、かと言って回避するのも難しそう」


 物憂げっぽい表情を醸しながら、そんな無理からひねり出した考えを開陳するけど、主任は、ごもっとも、と幾分笑みを交えながらそう首肯してくれる。OKOK、いい感じに思考がハマってきたぁぁぁ。


 相手を沈黙せしめられるのは、額のただ一点を「DEP弾」で撃ち抜くことだけでしか為しえない、とか言ってた。VR内、さらには得体の知れない「疑似弾」とは言え、銃素人の私には、視界ギリに入ったくらいの遠くの人間に精密なヘッドショットを喰らわせられる自信なんかない。主任なら……? とは期待してしまうけれど、それでも多勢に無勢感ははなはだ著しいわけで。


「この拳銃の装填数は一度に『15発』だそうだ。『充填』するにはこの弾倉マガジンを握って『DEP』を着手すると。それでもって『DEP』評点によって、『弾丸』の威力も上下するってさ」


 主任は構えていた拳銃に視線を落としながらそう説明してくれる。顔面周りを覆っていたはずのヘッドギアは、いまこの瞬間には「見えて」なく、普段通りの無駄な力の抜けた面長垂れ目の顔が見える。これも「技術」か。この技術力を(以下略


 なるほど……強力な「弾丸」を仕込むことが出来れば、その有効射程は伸びるに違いない……先ほどから視界のあちこちに「表示」されてくる諸々の情報、そして遠くを見ようと目を凝らした瞬間に、視界がズームアップしてくるという凄い機能……流石はVR、流石はサバゲー……まったくそれについての説明が無かったことはいつものことながらムカついたものの、開示されない情報とか機能とかを先んずることが出来れば……優位に立つこと、それは不可能ではないのかも知れない。


 と思い、自分の手に握られた得物を改めて見やるけれど、私が選択したのは火炎放射器という名の、汚物絶対消毒するガンなわけで……一回やってみたかったってのが一番の選択理由だったけれど、はっきり間違えたかな感に今は包まれておる……背負ったバックパックの結構な重さに(これもVRが感じさせているというの?)、真顔になりつつも最善策を練り出さんと、私は必死で思考を回転させていく。


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