♮158:無辜ですけど(あるいは、最大級/急角度/ドメスティカ)


 表面上は、極めて平穏に時間だけが過ぎゆくようで。


「……」


 標高700mくらいの低山に迷い込んだような気分でいる僕なわけだけど、開始10分ほどを過ぎても状況にはまるで変わりが見られないことに、逆に焦りを感じさせられる。不気味なんだ、とにかくこの静寂が。


「岬よぉ……まさか本当に異世界に転移しちまったっつーことは……」


 それは無いと断言できるが。でも、かくいう翼も所在なさげに周囲に視線をやることくらいしか出来てない。


 おぼろげな記憶をたぐると、確か「DEPを放ってそのエネルギー(?)を得物に装填することが出来るが、半径100mにそのことが告知される」みたいなことだったよね……いまだ僕の元にはその通告がまったく為されていないわけで、つまりは、みんな出方を伺っての膠着状態に入っているというのだろうか。敗北条件が、「眉間の一点にDEP変換弾を喰らうこと」だったと思うから、とにもかくにも相手を沈めるにはDEP充填は必須と思われるけど……


 運営の立場になって考えてみよう。70組から決勝に進めるのはたった20組。僕ら「4組」以外が全部運営の息がかかった者と仮定すると、66組から20組。これって結構な倍率だよね……各チーム間で疎通がはかれているのであれば、僕ら4組をボコった後で、順当に「勝ち上がるべき」チームを上にあげる出来レースが行われるのだろうけど、どうだろう。それにしちゃ、多過ぎないか? むしろ運営内での勝ち残りを賭けたガチ勝負に移行するんじゃあないのか? 運営本体にしては、僕らさえここでツブせれば、後はどのチームが勝とうと問題はないはず。であれば、あえてのガチに持ち込むことで、この大会自体を盛り上げるように仕向けるのでは……?


 かつて、「華麗なる構成」とやらをのたまっていた、ひどくこちらの神経を逆なでしてくる髭面をふと思い出した。運営の首謀者の手の内で踊るのははっきり言ってエセであり、目の肥えた「観るダメ」たちには最早通用しないのなら……この「ファイナル予選」がガチ対決になる可能性、それは高いと思われる。


 そして、そのガチり合いが、フライング気味に「僕らを屠る前から」始まる可能性も……高いはずだ。虚を突けるのは、おそらくそこしか無いと思われるから。でもそれはもしかして、僕らにとっては好材料に成りえないか? 完全足並み揃えて来られたら多勢無勢でなす術なさそうだけど、敵さんのお互いがお互いを出し抜こうという思惑を抱いていたら……?


 そこに隙は生まれると見た。互いが互いを牽制し合っての膠着状態……であれば「DEP装填」も、自分の位置を「味方側」にも知らせることになるわけで、おいそれと使用は出来ないと思う。いちばんいいのは、他力本願で待ちの姿勢を貫き、僕らを屠ろうと動いた組(居場所が知れている)を狙う……そんなハイエナ的戦法なのかも。何度も言うけど、そんな消極策には必ず隙や緩みが出る。僕の数少ない経験が、それを裏打ちしてくるかのようで。


 であれば、それをさらに逆手にとって、運営側を手玉に取ること、それが出来るんじゃないだろうか……僕は無い頭脳を振り絞って、この場の打開策を考え始める。


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