♮134:双刃ですけど(あるいは、ケンタウロシック/マーメイダス)
と、自己内世界の内の内の方へと、時間軸をも遡っていった追憶の旅はふいと終わりを告げた。
自分でも、ああそんなにすんなり戻れるんだ……とか、どこか俯瞰したような視点で見ている自分もいることを感じている。
結論が出たのかどうか、それは不明だけれど、「淫獣」の先に何かが待っているのなら。
……それに向かって突き進んでいくのもいいのかも。勝ち抜くことで、お金だって得られるわけだしね……ふへへへ……無理矢理に笑ってみたら、やっぱり得体の知れない気抜けた感じになってしまったけど。
さて。
ちょっとの間、意識の埒外に出ていた対局相手、結城少年と金髪美女は、先ほど食らわせられたであろう折檻電流の余韻を残した悶絶顔のまま、その搭乗機も力を失ったかのように、中空をずるずると滑るように落下を始めていっている。うーん、この「最初負けた後、強引に再戦を挑んで勝つ」という反則級の手は、反則過ぎてちょっと申し訳なくなってくるほどだけど。
滑落のその途中で、意識を取り戻したかのように見開いた結城少年の目と目が合った。しかし合った瞬間の僕は、ふと思いを馳せた巨額のカネというものに全てを掌握されてる風のいい感じの容貌をしていたのだろう、ヒィ、とひと声上げてから、気を取り直したように結城少年は言葉を紡ぎ出していく。
「【淫獣】くん……『獣』の意味が分かりかけてきたんじゃあないかい? 掴みかけてきたんじゃあないかい……? 『ダメに本質は無い』。人間が人間たらんとする何か……それが『ダメ』なのだとしたらどうだい? そう、人間しか、『ダメ人間』にはなれやしないのだとしたらい?」
最後、語尾もキャラも定まらなくなってきていたけど、
「その一方で人間も『獣』のひとつであるということ……それを覚えておくといいさい……あーはっはっはっはっ。あーはっはっはっは!!」
締めはあどけなき「少年」の声で高笑いをかますと、その姿は下方へと沈んでいき、徐々に小さくなって、最後には雲にまかれるようにして見えなくなっていった。
「ミサキよぉい」
ただいまの「勝ち」により、再びエネルギーを得た僕らの機体はまたするすると前方向けて滑り出していくのだけれど。背後からはやけに落ち着いた翼の声が響いてくる。
「……母ちゃんのことを思い出してた」
僕に呼びかけておいて、ひとり言のような物言いだった。だったけど、何となく共有できてしまうのは、やっぱり僕らが双子だからだろうか。
翼の言いたいことも軽く頷くだけで流すと、再び先を目指していく。「先」に何があるのか、見極めてやろうというような覚悟を持って。
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