♮132:海馬ですけど(あるいは、ジョルジュ先生ごめんなさい)


 上空。横目で窺う流れる景色はどこまでも青。目の前には鋭角気味のレオタード。何だこれ。


 <先手:No.06060:着手>


 僕らの手番。もう流石に後はなさそうだから、ここで決める。しかし、ここに来てよう分からんけど、走馬燈のように自分の内面に思考がシフトしていくような感覚が浮き出してきている。


 ……諸々迷うところはあった。本大会に出場することになったのも、かなり大枠で薄めに薄めると「巻き込まれた」……そう言えるのかも知れない……


 だけど、まだ体内で燻っているようなものがずっと残っていたというのも確かだ。


 一旦は浄化されたかのように思えた僕。生きているから当然かも知れないけど、その後の人生でまた、心の外側に、いろいろな細かいストレスやらキツい当たりやらで発生した、積もる埃のようなものも覆い始めていたけど。


 ただ、それらじゃあない、もっと核のところの何かが、まだ居座ったままに感じているんだ。この「ダメ」に参加しているとなおのこと、それがおぼろげだけれど浮き彫りになるような感じもして……


「ダメ」と出会う前。


 深々と根差す「承認欲求」を、時に露骨に、時に陰に籠らせ、体と心のバランスをあやういところで保ちながら、過去の僕は、何と言うか半歩引いたような状態でいつもいつもをやり過ごしてきた。


 そんな、内々に閉じていきかけていた僕のメンタルを、無理やりにこじ開けたのは、先の大会だった。僕の中で何かが弾けて、混ざって……


 分裂、揮発、拡散。共有、昇華。


 自分の中で煮凝ったキツい過去を、「DEP」という言葉に変換させ、アウターな世界に撃ち放つ。それによって確かに僕の魂は浄化された。大量の膿と血を流して。


 けど、その時でもまだ解き放たれなかったものがあった。それが多分……「淫獣DEP」なのだと思う。自分の中でもまだ咀嚼しきれていないそれらは、「強力な武器」ではあったけれど、持ち主にも得体の知れない「妖刀」のような……そんな代物だった。


 そこに向き合う必要が出てきた、と考えようか。ことここに及んでもそんな思考に囚われてしまうのは、結局はまだ本気の覚悟が出来ていないのだろう。


 向き合おう。この何とも度し難い、異常性癖とも思える原点を。源を。


 あ、まあとりあえず、


「……『ジョルジュ・ブラックの『果物皿とクラブのエース』ってありますよね……あの臆面に黒い円が空いているって知覚した時にですね……太腿同士を擦り合わせていたっていう、そんな話』」


 置き土産的な淫獣DEPをご笑納くだされ。もうだいぶ巨匠たちを撫で斬ってきた僕だけど、まだまだ底無し無尽蔵に出てきそうだ。でも本当にこれ何だろうね……自分で何だろうっていうのも何だけど、何だろう……


 思わぬところで悟ってしまった僕だったけれど、


 <先手:99,777pt>


 相も変わらずの高評価に、うーんとなってしまう自分も感じている。


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