♮103:蠕動ですけど(あるいは、クロッシング/遥か/ミトラパリッシモ)


 しばし、その黒白メイド少女と目が合ったままで固まってしまった。周りの喧騒も、ちょっと遠ざかった感じ。何と言うか、凛とした「気」のようなものを感じる……どことなく高貴なオーラを孕んだその姿は、見る者を圧倒してくるかのようであり。美しく整った顔にはしかし、張り詰めた決意じみたものも感じられる。何か……この少女は、何か違うものを持っているような気がしてならない。と、


「よお少年。噂は聞き及んでいたが、こうして対面トイメンで向かい合うと、また何とも言えねえ感慨があるよなあ。何年振りだ? ジョリさんとこの仕事はうまくいってんのかよぉ?」


 僕が勝手に感じているだけかも知れないけど、確かに知覚していたその揺さぶられるような雰囲気を吹き凪ぐかのように、僕らの側まで細長い体をひょこひょことさせつつ近づいてきたアオナギの言葉はいつぞやのままに、軽く流れてくる。


 が。


 おうワレに挨拶が先じゃろうがい、みたいな低い低い声が隣でしたかしないかの内に、再び放たれた若草さんの鋭すぎる右ローが、アオナギの痩せた膝横に撃ち込まれるのを、残像としてはかろうじて確認出来た。


 こんどろいちんっ、みたいな呻き声を上げつつ、カーペットにくずおれうずくまるその姿を見下ろすかのように、藍色のコートの裾を閃かし、若草さんがその美麗なる顔を蝋人形のように固定させながら強烈なプレッシャーを放ち始めるけど。ひぃぃぃ。


「そちらも元気そうで何よりだわ。ま、今となっちゃあ、縁切れしてるから別に関係はないのだけれど。こいつは挨拶代わりの戦いの狼煙と思っていただけたら、これ幸い」


 全く感情が乗ってない言葉というものが、これほどまで恐怖の根源を揺さぶってくるとは……!! 若草さんのこと、数年前に少し会っただけだから、あまり知らなかったけど、こんな凶悪な面を持ちしヒトだったんですね……絶対に予選では当たらんとこう……


「ね……姐さん……今回はお手柔らかにお願えしますでやんす……」


 語り口が定まらなくなるほどに痛みで委縮したアオナギから、そのような言葉が放たれてくるが。そう言えば、この場にいるということは、出場者ってこと? 


 執事、メイド、アオナギ、あとうわあっ!! 今になってやっと気づいたけど、小山のような巨漢がその背後にのっそりと立っていたわけで。大きすぎて、その上あまり存在感を感じないからその存在を認識できなかったよ……。丸い瓶底眼鏡をかけた汗だくの角の取れた三角形みたいな巨顔は、一度見たら忘れられない。


 このヒトとは、先の大会の予選決勝で当たった……名前もインパクト大だから覚えている。豆巻マメマキ 丸男マルオ。あの凶悪な方の丸男では無く、ひと目、人畜無害そうな方のマルオさんである。赤と黒のチェックのシャツでそのどでかい体を包み、子供なら三人くらい入れそうな胴回りのジーンズを身に着けている。


 計四人。二人と二人で出場と、そういうわけだろう。以前は仲間だった人と、こうして敵同士で相向かい合うというのは何と言うか一抹の物寂しさがあるぅぃいやそんなこともないか!!


 僕は冷静に、ツブすならこちらだ、とアオナギに冷静にロックオンすることに決めるけど。


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