#081:威容で候(あるいは、Dを継ぎしは/厳然フォートレス)


 成田空港からはタクシー二台に分乗しつつ、目的地であるところの「台場ダイバ」なる所を目指していた。


 姫様、私、モク。が、一台目の後部座席に向かって右から搭乗、ギナオア殿、ガンフ殿は後続の車ですぐ後ろに付いている。


 「渋滞」なる混雑により車の進行が遅延、あるいは妨げられるといった事象を懸念していたものの、「東京湾」を巡る湾岸道路は概ね順調に流れていると見込まれる。


 それにしても度肝を抜かれる景色だ……湖のような湾の中ほどには、島がいくつも規則正しく水面に浮かぶようにして在り、その上には雲をつかんばかりの四角い建物が林立している。そしてそれらを結ぶ橋のような巨大な道路……沈みはしないかと、泳ぎが不得手である私などは、清々しい眺めであるにも関わらず、少しの息苦しさをも感じてしまうのだが。


 現地時刻13:08。我が祖国、ボッネキィ=マと日本ここの時差は、7時間こちらが進んでいる計算だ。今日の日中の活動は問題無さそうだが、夜寝られるか、そこがやや懸念ではある。まあ「おばば様に面会する」という用事であれば、そう時間もかかるまい。


 その後のことは実はまだ決めてはいない。3日分の宿泊施設は、アオナギ殿の手配のもと、予約リザーブが為されているようで、それは有り難いのだが。


 おばば様を看取る。そのような事になるやも知れん。いや、さなる不吉なこと、例え頭の片隅でも考えてはいかぬことであろう。私は一瞬、ぐっ、と目を瞑ってから、再び車窓からの流れる景色を見据える。


 頼りげなく見える陸と陸とをつなぐアーチ状の橋を渡っていく。


「あー、アライブスーン」


 白髪をぴっちりと撫でつけた、初老の運転手がそう告げてくれた。Thank you.と応じる。


 ギナオア殿は、おばば様が入院されているところを「町医者」なる言葉で表現されていた。もしやとは思うが、満足な治療が得られていない可能性もある。病状は詳しくは知らされていない、あるいは不明であれど、願わくば、この国における最高の治療を受けていただきたく思う。費用ならば少なからず出せるはずであるから。


 ……例えそれが延命治療であろうと。


 姫様は車に乗り込んでからは、ずっと車窓から外を見て黙り込んでいる。おばば様との邂逅が迫ってきたことにより、多少なりとも緊張されているのだろう。初めてお会いするのだ。肉親とはいえ、それはそうなのであろう。と。


「あ」


 隣で小さく姫様が声を上げた。何事か……? もしや不審な車両が我々を尾けていたのか?


 そうでは無かった。


「す、ごい……ここが?」


 モクも呆けたような声を出すが……二人が目を瞠りながら見ている先を、私も持ち前の、2km先のホココネジコとホポポネスコを見分けることの出来る視力を発揮し、見やる。


「……!!」


 白亜の巨城がそこには屹立していた。我らの王城に匹敵せんばかりの、高さと広がりを持って。しかしそれだけの威容を誇りながらも、こちらに発してくるのは圧迫感では無い。


 得も言われぬ、包容感がそこにはあった。


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