♭043:無象かーい(あるいは、乗り遅れるな/旅団W)


 かくして、本日昼から「ミーティング」は取り行われるのであって。


 ―これに、水窪さんのこれまでの『ダメだったなぁ』と思う出来事、エピソードを書いてきて欲しい。別にきっちりは書かなくてもいい。まあ言ってみれば『ネタ帳』。だが、『思い出す』ことと『書き出す』ことを同時にやっておくと印象深く思い出せるものなんだ。そして書いたものを『他人』である俺が読んで咀嚼する。それによってもたらされる事象のズレみたいなものも、『盛る』というベクトルにいい影響を与えられると、そういうわけだ。俺はずっとこの方法でやってきている。大きく間違ってはいない、とそう思う。


 賽野主任チーフのいやに熱っぽい目は、私を見ているんだか、その先にある賞金を見据えているのだかは分からなかったけど、この私の腐敗感著しいダメ才気を見抜いていたのだとすると……あなどれないし、厄介だとも思う。いや、厄介って言い方はダメ、ダメ。


 主任の前ではまともな女でいたい……そんな儚い思いが脊椎の中から貫かんばかりに私の内面を苛むのだけれど。


 でも、そんな目つきで意気込まれたら、やらないわけにはいかないよね……私は昨夜、聡太をとんとんして寝かせつけ終わった後の、すべてを出し切った感でパンパンになっている身体と心を叱咤しながら、その小さなノートと格闘したのである。


 <大学デビュー初日、『イタリア人とのハーフ』という設定を引っ提げ、濃いブルーグレーのカラコンを、青の素体レンズの外側に油性シルバーのペンで塗って自作して登場し、あやうく失明しかける前に無事にばれて『目から鱗女』という、極めて和風な異名を欲しいままにした>


 うーんうーん、ちょっとばかし尖りすぎだろうか。大学デビュー失敗談なんてよくあることだろうと思うけど、と言うか、18の時の私って何であんなにも度し難かったんだろう……まあ一応キープと。


 <会社でインディアカ部に所属していたんだけど、その時付き合ってた彼と房総の砂浜で戯れのビーチインディアカに興じていた時、思わず必殺のズィッヒシャイデンラッセン=スパイクを人中向けて撃ち放ってしまい、それが元で別れた、かろうじて罪には問われなかったっていう、そんな話>


 いかんいかん!! いや暴力はダメだ。あくまで私はキレる頭脳にて勝負するクールな女よぉん……SATURIKU能力がぶっキレててどうする。べりりと書いたページを破り丸める。


 どうやら「盛るためのデコレーション」より「包み隠すためのオブラート」の方が必要なようだ、この私には。DEPとしてのキレ、そして主任に対する露呈隠し、みたいなもの両方を考えつつ書き紡いでいくのだけれど、ふとした瞬間に、あれ? 私なにやってんだろう的考えが、耳元で囁くかのように訪れてくるわけで。


 んでも、やるしかねへぇぇぇぇぇぇえっ!!


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