♭042:有象かーい(あるいは、追憶は/メモワール/鳴らして)
主任の勧誘から一夜明け。
「……」
昨日買って帰った水鉄砲で風呂にてしこたま遊んだ聡太は、寝る時もそれを抱いて幸せそうにオチたのだけれど。百円でここまで楽しめるって、やっぱり子供って無尽蔵だわ、みたいな感じで微笑ましい。寝顔のほっぺに軽くキスをしてから、昨日と変わらない日常が始まる。
けど、今日からは毎日、主任との打ち合わせが入ることとなる。一日三十分、昼ごはんを食べながら。これから「予選」までの二週間弱の間、主任の昼休憩と、私のそれを、三十分重なるようにして調整してくれたのだ。流石は主任。
でも……これって、逢瀬になって……しまわないかしらん……との、切なげなる想いが胸をキュキュキュとさせるのだけれど。いやいや、あくまで「作戦会議」だ。それに毎日「宿題」も出されるようで、何というか、そこまで「ダメ」を対策する人って初めてだわ。
私の「前戦」の直前には、「鬼軍曹」による特訓を叩き込まれたわけだけど、それは「格闘」に絞った対策だったので、ちょいと意味合いが違う気がする。
「格闘」……そういや懐かしい。ローキックの練習をひたすらやってたことを思い出す。今はもう……あの頃の鋭さは望めないかな。やっぱり何か懐かしくなって、私は自然と口許が緩んでしまうのだけれど。
いろいろあったなあ……いろんなヤツいたなあ……あいつら今なにしてんだろう……ふと、死闘を繰り広げた濃ゆい面々の顔が浮かぶ。
カリヤとかダテミとかドシガタはろくでもない人生をいまだ送ってるんだろうな……とか、センコはまだ相撲の道を諦めていないんだろうか、とか、ユズランって普段もあの縦巻ロールだったんだろうかとか。
チグワは未だあざとー全開なんだろうかとか、インナミは未だカレー臭ただよう佇まいなのか、とか、サトナシは立ち直ってくれたんだろうか、とか、シギはもうそろそろ平成が過去になりつつあるのだけれど未だ昭和を醸し出してるのだろうか、とか、島大佐はダメ界隈から足を洗えたのだろうかとか。
逐一思い出しては、ついつい笑顔になってしまう。自分でのさのさと起き出してきた聡太が、おかーさ、なにがよかったの? みたいな、私にも判別できない疑問を呈してくるけど。よくは分からないけど、なぜか笑えてくるんだ。
そして昔の親友、かざみ。今度一緒に旅行とか行こうね、と連絡先を交換して別れたけれど、すぐに結婚・出産が重なったから、いまだそれは叶ってないんだよね……
あの時の思い出は、ことのほか眩しく鮮明に、私の脳に居座っている。「魂の浄化の祭典」。
それに今度は、小手先全開でゲームのように攻略しようとしている。そのことにやけに引っかかってる自分がいるのだけれど、かと言って、それに抗おうというわけでもない。宙ぶらりんで、不安定な状態だ。こんなメンタルでいけるのかしら。
そしてこの後に、意外に過ぎる「再会」が待ち受けていることを、薄々感じつつも、無意識的に考えないようにしている私も自覚させられる。うん、何か、思い出したことで自分の首を絞めてしまったような、そんな感覚。かといってどうすることも出来ないのだけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます