♮025:虚言ですけど(あるいは、搾取/炸裂/プラナーサンシャイン)
ムロ「那須ハイランドパークより北北西に3km。福島との県境付近では……? いや、昨今ではキャンパーやハイカーの出入りがあるやもか……」
ジョリ「あるいは湾岸、東京ゲートブリッジの中ほど……ライトアップイベントに乗じてなら……隙はあるかもねぇん」
マルオ「ちょっと待ったってぇ~、埋めるか沈めるかの選択しかねえって、ちょいとちょいと!? お願いしますでげす、匿っておくんなましよぉ~」
貧相になったその体を手早く布団ごと素巻きにまとめると、僕とジョリーさんはスマホを手早く操って「その場所」を吟味し始めるのだが、
「じ、実は耳よりのい、いい情報があるんでげすよ。げへへ……」
苦し紛れだろう。丸められた布団から突き出た顔を恐怖と追従笑いでわけわかんない感じに歪めながらも、丸男は慌てたようにそう切り出してくるけど。お前のそれ系のことはもう聞き飽きた。
よいしょよいしょと、ジョリーさんが丸男の頭の方を、僕が脚の方を持って外に運ぼうとする。エヒィィ、との絹を裂くような悲鳴を上げる丸男。まったく、この輩の中身は何にも変わっていないな。
でもまあ、このくらいにしとくか。ジョリーさんと目と目で合図をすると、丸男が詰まった布団巻きを窓際の畳の上に投げ転がす。あるとばいえるん、みたいな呻き声を上げつつも、こちら側を向いた丸男はまだ何かを言いたそうにしているが。何かまだ申し開きでもあんのか。
「……ともかくのっぴきならない状況ってのは分かったわぁん。分かったところでアタイにはどうしようもないのだけれどぉ」
ジョリーさんが大きく野太い溜息をつくと、そのハエトリグサをモチーフとしたつけまつげの下から、丸男を諦めと哀れみと蔑みの入り混じった目で見やる。
「自己破産させないように出張られてるとしたら、もう後はションベン刑でも喰らって塀の中に逃れているしかないのでは……」
僕の案に、ヒィィ、シャバにいさせてぇ、との懇願をする丸男だけれど。でも他に道は無い気がする。と、
「き、きき聞いてくれぇ、東京まで戻ってきたのは、ムロトのことを考えたこともあるけどよぉ、『コレ』があることを唐突に思い出したんでぇぇ」
緩んだ布団から這い出してきた丸男が、震える手でスマホの画面をこちらに向けてくるけど。割れ過ぎていて何も読めん。
「ま、『摩訶★大溜将戦』んんんんんっ!! 四年に一度の世界大会が、台場で行われることを思い出したのよぉっ!! どうでえ、こいつに優勝すりゃあ、あんな屁みたいな借金、すこんと熨斗つけて返済できるってぇ寸法よぉ」
意気込んでそうぶち上げる丸男だったけど、僕とジョリーさんは冷ややかな目でそれを見下ろすだけだ。
「『大溜将』のことは分かってたけどぉ、それはまさにの夢物語よぉん。マルちゃんもとっくに盛りを超えてるしぃ、ムロっちゃんもカタギになってからは手に職つけつつ頑張ってるんだからぁん。今更『ダメ』でどうこうなんて無・理」
言い方は気になったけど、それが正に真実、と思う。まあ元々僕にはそっち方面の才気は無かったんですけどね。
しかし。
「……ふふふ、誰がこの俺っちが出場すると言ったかい? 今回はプロモーターとして暗躍するまでよぉ。そして!! ムロっちゃんの眠れし潜在パゥワァーを引き出せることの出来る人材を、実はもう見つけてあるんだぞなもし」
また口調が安定しなくなってきたけど、ちょっと待て、僕が出ることは確定済? やらない、って言ってるのに。
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