♭012:絢爛かーい(あるいは、条例が気にならなくても眠らない街)


 東京湾に浮かぶ人工島に、2年前、突如として屹立した不夜城「台場シーゼアー=カジノ」。その敷地面積は東京ドーム約2個分だそうで、近辺にそびえる国際展示場ビッグサイトとほぼ同じ大きさ、だそう。


 映画館、劇場、飲食店や商業施設などがみっしりと詰まった6つのタワー型の建物を頂点とした正六角形がかたち作られ、空中回廊でそれぞれつながっている。その中心部には、これまた正六角形の白亜の巨塔みたいな感じの割と外見はそっけない感じの巨大な建造物がどんと構えている。周囲の景観に配慮したと言っているけど、猥雑を無表情の能面で隠し込めましたみたいな感じで、かえってアレな感じがしなくもないけど。裏でぐっちゃぐっちゃに絡み合う利権なんかの話を聞くと、さらに。


 ともかく、この中身がまるまる純粋なカジノであるわけで、地上6階の豪奢なフロアのそのどこかしこでも、24時間絶え間なく熱狂が渦巻いている。


 そんな、割と浮世離れした場所で、私の仕事はいつも通りに地味に始まる。


 ここで働き始めたのは、そして今まで続けていられるのは、家近イエチカということもあるのだけれど、意外と定時がぴったりしていることが理由の大きなひとつ。ほぼ清掃・雑用係だった初期もそうだったし、ディーラーとして一卓を任せられるようになった今も、それは変わらない。


 時間が来たら速やかに交代出来るから、保育園のお迎えに遅れたことは一度も無い。職務の役割がきっちり決められているから、余分な残務処理もなく、そして何より仕事以外での人付き合いをしなくても済むというのが、今の私には心地よいわけで。今日も私は満足感と気合いを持ってきらびやかなホールに入場する。


「よっ、おつかれ」


 そこにかかる、ぽんとした感じの軽い言葉。人付き合いが義務じゃない、とは言え、気になるヒトはいるわけであり。軽い感じで挨拶をしてくれたのは、180くらいの上背で、細身……というか、ちゃんと食べてんの? と思わせるほどのがりがりの体躯。肩幅は広いから、身に着けたワイシャツもベストもハンガーで吊ってるような状態になっているけど、それでもしっくりと着こなしているのは場数と経験の差なんだろう。


 腕前はトップレベル。特にルーレットの仕切りが傍目に見てもおそろしく巧妙で、かつアグレッシブで、しかもものすごく静かで、ありえないほど「見えて」いる。


 いつも眠たげな目は結構垂れ気味で、いつでも「苦笑」、みたいになってしまう笑みは場合によっては感じ悪く映ってしまうかも、だけど。


 そのナチュラルさ、いや、ナチュラルな退廃さ、みたいなものに強く惹かれている自分を最近特に感じている。いやさ、もう恋をしていると言ってしまっても構わないだろう。他のママさんたちに話したら、ちょっと引き気味で流されもしたけれど。


 ……34歳子持ちバツイチが、恋愛をしたらいけないという条例が制定されてるとでも言うんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


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