♭010:唐突かーい(あるいは、颯爽登場;二代目)
シングルマザーの、朝は早い。
<05:45>を示し鳴動するスマホを、かさつきにかさついた指を何とか認証させ黙らせる。スヌーズ4回目。でもここまでは予定調和。布団の中でまどろむ時間。それは今の私の何よりの至福の刻なのだから……
あれやんなきゃこれやんなきゃという切迫感と、嗚呼あと10分はぬくまっていられる……というような相反する思考が大脳の中で渦巻く。活発に動き始めた頭と、完全にまだ始動の気配を見せない体……そんな穏やかな金縛りのような状態から、っきよぉぉぉぅぅう、と喉奥が引き攣れるような奇声を徐々にクレッシェンドさせながら、うつぶせの態勢から、まずはおしりを高々と上げたおはしたないスタイルへと両膝を胸の辺りまでにじにじとにじり上げる。
そこからは気合いだ。はんふっ、という鼻と口からの裂帛音を鳴らすと、私はキングサイズのベッドの上で、両手両足を駆使してのコメツキバッタもかくやの跳躍をかまし、見事マットレスの上に自らの二本の脚でぶれなく立つことに成功するのであった……
私の横でかわゆい寝息を立てながら、完全に安心しきった放心顔で寝ているマイエンジェルは、これしきの震動では起きないので大丈夫。ベッドから降り、そのむちむちのほっぺからこめかみを通って犬っぽい匂いを放つつむじまでキスの豪雨を降らせながら、私は次にやるべきことの算段を綿密に組み立てている。
冷凍庫に裏ごししたかぼちゃがあったなあれと昨日のごはんとでおかゆにするか私は適当にトーストでいいや土鍋出して火かけたら洗濯もの干してあれ今日何か持っていくもの無かったっけやべアンケートも書いてないしああそうだ劇で着る「なるべく全体が紫のシャツとパンツ」ってそんなのねえっつうの……
滅裂な思考をまとめつつ、無理なことは無理とすぱんと諦め、やれることをやれる順にどんどこ片付けていく。これが
結局、私は絵に描いたような幸福な家庭生活を送ることは出来なかった。何が原因だったか……それは分からない。いや、いろいろあり過ぎて絞り込めない……特に酒を口にしてからの天衣無縫・八面六臂・東方不敗な狼藉については、事実としては認識しているものの、大脳の防御本能なのか、詳細なエピソード記憶としてのそれは完全に抜け落ちたままだ。
ま、まあいろいろあったなあ……遂に擁護不能となった夫より離縁を言い渡されたのが4か月前。慰謝料という名のこのマンションの一室と、ギリの養育費を手に、親権だけは頑なに主張して、天使と私の、ふたりだけの生活が始まった。後悔はしていない。と言えば嘘になる。ことも無きにしもあらざりにけり。要はようわからん。って、
……無駄な回想してる場合じゃないか、そろそろ起こさないと。
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