もう1度私を起こして~Wake Me Up Again~
和泉ロク
前編
もう一度、私を起こして。 Wake Me Up Again
「まぁたこんなところで寝たんですか」
いつも、こんな調子で声をかける。23時15分。この駅からの終電は23時30分だったはず。そんなことを思いながら、僕は貴女に声をかける。
「ああ……すみません」
今覚醒したであろうその声は、いつも心に素直に響く。
「飲んでたんですか?」
「あ、はい」
「はあ……」
溜息の1つも出てしまう。心配性なのは自分の性格として自覚しているが。
「あの……怒ってるんですか?」
いつも、こんな調子で声をかけてくれる。23時15分。この駅からの終電は23時30分だったはず。そんなことを思いながら、私は貴方に起こしてもらう。
「いえ、呆れてるんです」
寝ぼけた頭でも、貴方の声はいつも素直に響く。
「ごめんなさい」心配かけてっていう言葉は何故か飲み込んでしまっていた。
「いえ、大丈夫ですよ」
彼が笑顔で言う。
「で、でも」
「こうして迎えに来れたんだし、何事もなくて良かったですよ」
彼はいつもこうやって、心配して迎えに来てくれる。彼は優しいのだ。
この駅の近く、とは言っても、10分以上は歩くのだが。そこにbarがある。よくお世話になっていたこともあり、今日も飲み納めで飲んできた。帰りにコンビニで、缶チューハイ。ストロングのやつ。駅までの10分近くで飲み干して、時刻は23時。駅に置かれたベンチを見ると、横になってしまう。そうなっても必ず、彼が来てくれるのを信じているからだ。
「ご心配をおかけしました……」飲み込んだ言葉は、何故か彼の顔を見ると素直にでてきた。
「大丈夫ですよ。……立てますか?」
差し出された手。
「ほら」
その手をとることに、ほんの少しの寂しさが。
「ありがとうございます」
手をとって、貴女はすぐにふらついた。危ないと思う。だいたい、いかに近くにbarがあるからといって、この人は飲み過ぎてしまうから。いつも心配になってしまうのだ。ふと、考える。いつからこの人がこんな心配になったのか。放っておけばいいものを、僕はなぜか放っておけないのだ。この駅がいくら無人の駅といっても、利用者は必ずいるわけで。確かに、こんな遅い時間には貴女くらいのものだけど、それでも。
「……大丈夫ですか?」
「少し、ふらつきますけど……大丈夫です、歩けます」
「それは良かった」
貴女のその笑顔が、僕の脳裏に焼きつく感触がわかった。
お互いに何故か黙ってしまう。貴方のその心配性がどれほど嬉しかったか。伝えようにも、酒の回った頭じゃ上手く言えない気がして。
お互いに何故か黙ってしまう。貴女のその笑顔と振る舞いに、どれほど心奪われていたか、伝えようにも、今の自分じゃ上手く言えない気がして。
「「あの」」
言葉が重なって。
「お先にどうぞ」僕はズルい。
「いえ、どうぞお先に」
「いえ、レディファーストですよ」やっぱり僕はズルい。
「ズルいです」ばれたか。
「ははっ」
「なんで笑うんですか」
「すみません、面白くって」
「何がですか」
「いろいろです」
「そうですか、いろいろですか」
そう言って、貴女は少し、不機嫌そうな顔する。その顔すらも、愛おしく感じるのに。
「はい。……それで、先程は何を……?」
「あ、ええっと、その……ええっと」どうしても、上手く言葉にできない。
「?どうしたんですか?貴女にしてはえらく歯切れが悪いですね」
これを言うと、すべての終わりを認識せざるを得ないからなのか、酔った頭で考える。でも、伝えないなら、それはそれで残酷だとも思う。
「いえ、その……もう、終わりなんだなって思いまして」
声は震えていなかっただろうか。
「……そう、ですね。」落胆したようにも見える彼のその様子に。
「こうして会うことも、貴方が迎えに来てくれることもないんだなって」言葉が止まらなくて。
「……さっき、僕も同じこと言おうとしてました」
本当にそうだった。これが終わりだから。すべての終わりを認識せざるを得ないからか。だけど、伝えなくては、変わらないように思う。だから。
「……え?」
「こうして貴女とお話することも、さっきみたいに貴女を迎えに行くことも、もうないん
だなって」言うしかないのだ。こういうことを。
それはきっと、終わりの合図になるかもしれないことを、僕はわかってて言ったのだ。やっぱり僕はズルいのだと思う。
「……ふふっ」
「なんで笑うんですか?」
その笑い方さえ、綺麗で。
もう1度私を起こして~Wake Me Up Again~ 和泉ロク @teshi_roku
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