トモが女になりまして。
カニク派
第1話 ユーキひゃくばい
雲ひとつない……とまではいかないがすがすがしい程の秋晴れだった。
憂鬱な月曜日に差し込む陽気の暖かさは北風の冷たさを和らいでくれる。それだけで今日も一日頑張ってやってもいいかもしれない、と思うのだ。
そんなくだらない事を考えながら歩き続ける事15分。目的地であるユーキの家に到着した俺はチャイムを鳴らそうと指を伸ばした。
「だからっ! 俺だって何が起きたのかさっぱりなんだよ!!」
「うわっ!」
チャイムが押されるとほぼ同時に扉が勢いよく開け放たれる。俺は驚き後ろに飛び退きつつ、ユーキの家から飛び出してきた見知らぬ人物に注目した。
「あ……」
目の前の女子は俺に気付くと目を見開いて固まった。薄く茶色がかったボブヘアーはボサボサ、パジャマ姿の所をみるにいかにも寝起きといったところか。胸元がややはだけている所が青少年的にはグッドだ!
(おおっ。中々可愛い……)
実に俺好みの顔と言えるだろう。背の高さからしてあいつの妹だろうか? しかしあいつに妹がいたとは初耳だ。
「祐樹!! 待ちなさい!! ……あら、
「あ、お取込み中すんません。ユーキを迎えに来ました。あいつ起きてます?」
「え!? あの、そのねぇ利久くん。祐樹なんだけど……」
説明に窮するようにユーキのお母さんが口ごもりながら目をそらす。ちらちらと妹さんの方を見ては何か言いたそうな顔をしている。
「祐樹はそのぉ……そうそう! 今日は体調がすぐれないみたいでね!? 学校を休ませようと思うのよ!」
「……」
「そうそう」ってなんだよ。ユーキのお母さん、それ今思いついたってのがバレバレだぜ……。
これはあまり事情を聞かない方が良いんだろうか。けど、うーん……今日はあいつに購買のパン奢ってもらう約束だし。
「でもさっき大声でユーキの名前呼んでましたけど。何かあったんですか?」
「そ、それは……なんでもないのよ! 気にしないでちょうだい!」
「は、はぁ……そうすか」
話したくないなら無理に聞くものでもないよな。ひとさまの家庭事情に他人が首を突っ込むべきではなかろう。
「ああ、そういえば君は……」
「えっ!?」
「ユーキのご兄妹かな? 初めまして。ユーキの友達の利久です」
「あ――えと、ども」
「いやー驚いた! こんな美人な妹さんがいるなんて知らなかったよ! あいつも紹介してくれればよかったのに!」
「あ、あのね、利久くん。この子はその……」
「良かったら名前教えてよ! ぜひぜひ!」
「だあああああ!! いい加減気づけよコノヤローッ!」
「ぐえっ!?」
一瞬意識が飛んだのちすぐさま左頬に痛みを感じた。なんと、あろうことか俺は殴られたのである。初対面の相手に!
「な、なんという事を……」
「黙れ! お前、俺が誰だかまだわかんねぇーのか!!」
「は、はぁ!?」
なんと凶暴な女だろうか。流石はあいつの妹!
しかし俺はどこかで彼女に会ったことがあるのだろうか。はて、全く身に覚えがない。出会いがしら女子にぶん殴られるような失礼な真似はしたことが無いと自負している。
「やめなさい祐樹! なんて事するの!」
「ゆ、ゆうき……!?」
「いくら何でも失礼だろうが! 今のはこいつが悪ぃ!」
ゆうき……ユーキと言ったか?
まさかあいつのお母さんが自分の子供を間違えるはずもないだろう。しかし兄と妹が同じ名前のはずがない。これは一体どういう事だ。
俺は殴られた左頬をさすりながらその女子の顔をじっと見つめた。幸い彼女はお母さんと言い争いをしているので俺の方には気が付いていない。またぶん殴られることはないだろう。
しかし見れば見るほどユーキのやつに似ている。切れ目、髪の毛の色、小さめですらりとした筋の鼻。しかし顔の輪郭はやはり少し異なり、特にエラの部分はやや角が取れているので顔全体がやや丸く見える。中学高校生らしい、大人にないあどけなさを感じる可愛らしい作りだ。
んー?? あれ、どこかで見た事あるような…………。
「な、何だよ」
俺の視線に気づいた彼女が引き気味に俺を睨み付けた。
その顔を見た瞬間、俺は彼女が何者なのかを理解した。
「え――お、お、お前っ、ユーキなのか……!!」
女子は無言のままプイとそっぽを向いてしまった。無言は肯定とみなしますよ。
「えーっ!! お、お前、まさか女装癖があったなんて――」
「ちげーよバカ! あーもう!! ややこしくなるからお前少し黙ってろ!!」
「と、利久くん。あなたそろそろ学校に行かないと……」
「お構いなく。今から学校に休みの連絡をいれますので。――あっ、どうも。一年三組の
このフットワークの軽さが俺の持ち味よ。こんな面白そうな事態を見逃してたまるものか。
「……はい、そういう事なんで、本当にすみません。それじゃ! ――ええ、終わりました。それではお話を伺って構いませんね!?」
「はぁ……ほんっとにコイツときたら……」
「呆れた子ねぇ……」
二人は苦々しいで俺を見つめていた。
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