第72話 人生の幸せ
ローズとロダンが隣に引っ越して来たことで、英雄とフィリアの生活は激変した、――なんて事は無かった。
精々が、晩ご飯時に乱入して。
フィリアを一時間自由にする権利、ローズと一時間話す権利をかけて食後にゲームをするぐらいだ。
然もあらん、ローズはグループ会社を纏める立場。
勢い余って隣に引っ越してきたものの、その私生活は忙しく。
「さて英雄、冬休み最後の日だが宿題は大丈夫か?」
「何を言ってるんだい、昨日一緒に終わらせたじゃないか」
「いや、君の事だからな。私の知らないところで宿題を増やされていても不思議ではない!」
「うーん信頼が痛い。けどその心配はご無用だよ! まぁ宿題じゃないけど、一つ考えなきゃいけない事があるんだ」
「ふむ? どんなものだ? すぐに終わるか?」
「いやぁ、ちょっと難航しててさ。もしかしたら今日いっぱい考えなきゃダメかもって思い始めてる所さ」
「では一端考えるのを止めて、私にかまえ。君の恋人はイチャイチャを御所望であるぞ?」
「残念だけど、出来れば明日の放課後にでも聞かせて欲しいって校長先生から頼まれてるんだ。何でも三学期の学内イベントを増やしたいからってね」
「なら問題ないな、さあ私の腕の中で息絶えるが良い!」
「それ死んじゃうよっ!?」
「おっと間違った。私の腕の中でぬくぬくするが良い!!」
腕を広げてカモンベイベとウインクする彼女に、英雄は首を横に振って。
「だーめ、僕は今忙しいの。終わったら相手してあげるから。ドッキドキでワックワクのイベントを考えるんだっ!! さあ、何しようかなぁ。やっぱバレンタインを絡める?」
「ぶーぶー! 断固反対する! だいたい君はその手の事を考え始めたら長いじゃないか! 冬休み最後の日なんだからかまえっ!!」
「……ねぇフィリア? キャラ崩れてない?」
「分からないのか? あれから毎日姉さんが来て夕食後のイチャイチャタイムが少なくなっているではないか!! これは由々しき事態だ! 寂しがり屋フィリアちゃんが参上するぞ!!」
「もう参上してるよね?」
「という訳で! さあ私の腕の中に来るのだ! 来ないのなら強制的に君の腕の中に行くぞ! はーぐ! はーぐ! はーぐ!」
「日本語でどうぞ」
「ぎゅって抱っこしてダーリン?」
「ごめんね?」
「何でだっ!? いつもなら。『はい、ぎゅーっ!』って抱きしめてくれる所じゃないかっ! 私と校長の頼み! どっちが大切なんだっ!!」
「ズルっ!? その質問ズルっこだっ!? 楽しいイベントを考えるのは僕の生き甲斐だよ? それとフィリアとは比べられないよっ!!」
「私より校長をとるのか?」
「興味本位で聞くけど、そうだと言ったら?」
「残念だな、良い校長だったがシベリアの姉妹校送りだ」
「シベリアに姉妹校あったのっ!?」
「今から作る」
「止めてっ!? ローズ義姉さんの事で手一杯なんだから、変な労力使わないでっ!?」
「ならば英雄も、考える労力を私に使うべきだな」
「んもー、ならイチャイチャしながら。これからの話がしたいな。おいで僕の子猫ちゃん」
観念して腕を広げた英雄、金髪の美しい子猫は白紙のノートが広げられたちゃぶ台を退かして。
「にゃんにゃん、ごろにゃん。折角だから服も脱ぐにゃん?」
「それはダメ、節度を持とうね子猫ちゃん」
「ぶう」
「では子ブタちゃん」
「待て、ブタは止めろ。お餅の食べ過ぎでお腹がぷにぷにして来た気がするんだ」
「え、マジでっ! お腹のお肉、摘んでもいい!!」
「ええい! お腹に手をやるなっ! 絶対に触らせないぞ!!」
「わかった、じゃあ夜にセックスする時に堪能するから良いや」
「それをしたら即座に蹴り飛ばすからな?」
「分かった、やって良いってフリだね!」
「フリじゃないぞ、本当にやるからな」
「はいはいお姫様、じゃあ何を話そうか。イベントアイディアを刺激してくれて、かつ今後の為になる話が良いんだけど」
「…………英雄は欲張りだなぁ」
フィリアは少しだけ考えると、側にあった結婚雑誌を取って。
「よし英雄、結婚式の話をしよう」
「その心は?」
「イベントの事も姉さんの事も今は考えたくないっ! 今日はイチャイチャするのだ! 全ては明日から!」
「現実逃避だよそれっ!? 立ち向かわなきゃ現実と! 義姉さんの脅威はもう迫ってるんだよ!? そして僕の締め切りも迫ってる!」
「いや、学校のイベントは校長本人か生徒会にでも投げておけば良い話ではないか。そして姉さんは無視だ無視。話して聞かず、問答無用で引っ越してきたヤツの事なんか考えたくない」
「うーん、これは拗ねてるね?」
「逆に聞くが、結婚の挨拶を邪魔した挙げ句。同棲まで邪魔しに来た存在に対して怒りを覚えないと? 拗ねてはいけないのか?」
「ごめん、僕が悪かった」
「悪いのは姉さんだ。――さあ、切り替えて結婚式の話でもしようじゃないか!」
「じゃあ聞くけど、どんな結婚式が良いの?」
「海の見える教会で、季節は春が良いな」
「なるほど、僕は白のタキシード、フィリアはウエディングドレスだね! 色の希望はあるの?」
「………………黒だ」
「え、黒?」
ぽかんとする英雄に、拳をぐぐぐと握りしめてフィリアは叫ぶ。
「ああ、黒だっ! そうだともっ! これは姉さんへの反逆! 黒いウエディングドレスを来て反逆とするのだっ!」
「フィリアがダークサイドに堕ちてるっ!?」
「そうだとも――今の私は、暗黒フィリア大将軍!」
「そこはダークフィリアじゃないの?」
「安直だぞ四天王が一人、ポテチ怪人ヒッデーヨ!」
「英雄ですらないっ!? 僕の名前を変な風にしないでっ!? 」
「何? 気にくわないのか? 我が儘なダーリンだ」
「え、これ僕が我が儘なのっ!? というかフィリア陛下? ウェディングドレスは白が良いんだけど」
「白? 私の全てを君の色に染め上げるつもりだな! この嫌らしいナイト様めっ!!」
「とっくの昔に僕の色に染まってると思うんだけど、その辺はどうなのお嫁さん?」
「正解だ! ほっぺにちゅう!」
「ん、ありがとう。じゃあお返しにちゅう」
「うむ、余は満足である!」
「じゃあウェディングドレスは定番の白って事で。そしたら招待客はどうする?」
「姉さん以外、ただしロダン義兄さんは許す」
「僕としては、義姉さんも含めた全員に祝福して欲しいんだけどなぁ……」
「だが英雄、現実的に考えてみればいい。今のままでは姉さんは出席しないぞ? それどころか準備段階で邪魔しに来るに違いない」
「うーん、それは困ったなぁ。僕はみんなでハッピーに………………みんなでハッピーに?」
その瞬間、英雄の脳味噌に稲妻が走った。
バラバラのピースが繋がっていく、見えなかった全体像が形を成して。
「それだよフィリアっ!! 結婚式だっ! みんなでハッピーになろう!!」
「急にどうした英雄? 何か思いついたのか?」
「ねえフィリア? 義姉さんってば、何処まで常識人? 自分の目的の為に、他の人の迷惑になるような事をする?」
「しないな、こう言うのもアレだが。私たちの様な人種は、パートナーが外付けの良心だ。パートナーが嫌う事、嫌われるような行為は絶対にしない」
「サンキュー! ロダン義兄さん! 愛してる!! よぉし最低条件はクリア! 後は細かい所を詰めれば――ぐふふふ、これは楽しくなるぞぉ!! いやっほう!!」
「英雄、要約して言え」
「栄一郎と茉莉センセ、愛衣ちゃんと天魔、他にも学校のカップル全員を巻き込んで、結婚式を学校のイベントでするんだっ!!」
「成程、既成事実を作ってしまうのだな!!」
「ふっふっふー、いくら義姉さんでも学校のイベントとなる邪魔できまい……我ながらなんて天才的な発想なんだ、自分の才能が恐ろしいよ!」
「だが英雄、学校で合同の結婚式とは色々と障害があるんじゃないか? 保護者からもクレームが来るんだろう」
「ちっちっちっ、言ったろうフィリア。みんなを巻き込むって、保護者とOBも巻き込むに決まってるじゃん! お袋と親父も巻き込もう、地元の有力者である栄一郎の親も、それから……義父さんと義母さんも巻き込めるかな?」
「厳しいかもしれないが、やってみよう」
「よおし! そうと決まれば今から動くぞぉ!!」
「待て英雄、この結婚式が上手く行った所で姉さんが納得しないだろう。後、一手欲しい」
その指摘に、英雄はニンマリ笑うとスマホを取り出して。
「へっへー、みんな巻き込むって言っただろう? 結婚式の動画を取ってネットに上げる。卒業したOBの中にテレビ局勤務の人が居るのも知ってるし、テレビの取材を頼んでみても良い」
「世間を味方につけるのかっ!? そこまで大事にするのかっ!? つまり私達の愛が日本中に知れ渡るというのだな!」
「そういう事! もしローズ義姉さんが式の後で強引な手で別れさせて来ても、ネットで炎上、お茶の間のテレビで炎上騒ぎにしてやろう!」
「なんて頼もしいんだ! 素敵抱いて!!」
「抱くのは後でね! 熱烈に抱くから、じゃあ新学期は派手に動くぞぉ!! いえーい、ハイタッチ!」
「イエーイ、ハイタッチ!!」
英雄とフィリアは、不敵に笑って行動を開始した。
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