第47話 ロード・オブ・ザ・リング



 恋人としてごく自然な流れがあり、よくある性欲ドコー?系・鈍感難聴主人公のラブコメではないと見せてはいないが見せつけた英雄。

 そして、取り敢えず色んな事に負けたが人生に勝ったフィリアであったが。

 次の日とか普通に学校があるし、仲良く登校だってする。


「へいへいへいへいへいっ!! ちょっとお前ら聞いてくれよっ!?」


「朝っぱらからどうしたでゴザルかエテ公?」


「さっき脇部と這寄のバカップル登校に出くわしたんだよ!」


「いつもの事でおじゃ」「だよな」「今更?」「エテ公、次はもっと良いニュースを頼むぜ」


「違うんだってっ! ホラ! 写真撮ったから見てくれよ!」


「あの二人がバカップルなのは…………にゃ?」


「ほらーっ!! 栄一郎は分かるだろっ! なっ! なっ!」


「うむむ? これは――変でゴザルな」


 栄一郎が首を傾げれば、そのニュースは本物だ。

 クラスメイトはこぞって越前天満のスマホをのぞき込み。


「うーん?」「いつもの……」「いや、待て」「何か違和感があるわよね?」「そう?」「机くーん、説明ヨロ!」


「では説明するでゴザル! ――の前に一応聞くでゴザルが、エテ公は分かるでゴザルな?」


「ああ、勿論だ……何せ俺は英雄検定一級だからな!」


「拙者も最近、這寄フィリア検定二級に合格した所でゴザルからなぁ。――何かあったでゴザルな」


「だよなだよな! まず、二人が腕を組んで歩いていないのが変だ!」


「それなのに、険悪どころか英雄殿は自信に満ちた顔をしてるでゴザル!」


「そして這寄さんだ、――見ろ、脇部のきっかり三歩後ろを歩いてる!」


「しかも……這寄女史は笑顔でゴザル。幸せ桜満開の微笑みと言い換えてもいいでおじゃ!!」


「ああ、これで皆も分かっただろう?」


「あの積極的な二人が、喧嘩した雰囲気でもないのに離れて歩いて。しかも満更でもない感じで、――これは、何かあったでゴザルっ!!」


「ま、まさかっ!?」「いや、そんな分かりやすい訳が……」「お、俺、何か目覚めそう」「おいっ!? そっちはダメだ脳が破壊されるぞっ!?」


「お赤飯買ってくる?」「まだ決まった訳じゃないわよ……多分」「くぅ~~、これで這寄さんと猥談が出来るのね!」「あの脇部くんの……ちょっと興味あるわ」「アンタ、聞き方気をつけないと刺されるわよ?」


 もしかして、もしかしてなのかと。

 噂のバカップルがもしかして、とザワザワする全員。

 そして彼らに一致する事は一つ。

 即ち――、誰が二人に聞くか。


「おい栄一郎、正面から聞いてみるのか?」


「ちょっと待つでゴザルっ!? こんなデリケートな事を親友である我輩が聞くでおじゃかっ!?」


「お前以外に誰が居るんだよ?」


「みんなも首を縦に振らないで欲しいでにゃあっ!? 親しき仲にも礼儀アリっ!! それにもし間違っていたら、どんな騒動に発展するか分かってるでゴザルか!?」


「あー、そっか。もし違ってたらなぁ……、ブラックコーヒーが欲しくなるだけで済めば良いが」


「最悪、あの二人の仲が拗れるでおじゃ。もしかすると、英雄殿のガチ説教タイムに突入するでゴザル……っ!?」


 真面目に不真面目、人生エンジョイでひゃっほう! な英雄ではあるが。

 下ネタもそこそこ、よく全裸になる筆頭である英雄ではあるが。

 他人の性癖はいじれど、性事情などの触れられたくない部分は敏感に察して。

 決して、茶化したりしないのが脇部英雄という存在。


 加えて、這寄フィリアもはっちゃけた性格である事が発覚したが。

 基本的にルール遵守、モラル遵守なのが彼女。

 ――英雄が関わると、途端に色ボケするのが難点であるが。

 ともあれ、英雄曰くウブだと言う彼女に聞くのは躊躇われる。


「皆……、諦めるでゴザル。例え英雄殿が大人の階段を登ったとしても、優しく見守るでゴザルよ……」


「んじゃ栄一郎、ホンネは?」


「あの糞アマッ! どうやって英雄を誑かしたッ! 今からでも遅くない! アイツ等を別れさせろッ!!」


「なぁ栄一郎? 何処までホンキだ?」


「…………半分でおじゃ」


「理由は?」


「拙者は同棲始めたあたりで、薄々気づいていたでゴザル…………這寄フィリアは俺に似て、くっそ面倒なヤツだとッ!」


「おお、珍しく栄一郎が吠えている……。っていうか、お前、自分がメンドくさいヤツだって自覚あったのんだなやっぱ」


「普通のヤツは、変な語尾で喋らないでゴザルし。まともな恋愛してるでゴザル」


「……………………あー。そういえば俺も関係者だったぁっ!? テメェこの野郎! 考えてみりゃあ、這寄がやらかす前は、英雄の起こす騒動の半分はお前が原因じゃねぇかっ!!」


「どの口が言うでゴザルかっ!? 全体の半分は英雄殿で異論はないでおじゃるがっ! 残りは拙者とエテ公でハーフ&ハーフにゃ!」


「お、喧嘩か?」「久しぶりだな」「止めなよダンシぃ」「はわわっ! 新たなカップリング!」「先生、コピ本それにする?」「つか、ちょっとヤバくね?」「止める?」「一番アレなヤツがそろそろ来るだろ」


 脱線した挙げ句、メンチを切り合う栄一郎と天魔。

 すると噂をすれば影、件の二人が教室に現れて。


「待つんだ二人ともっ! 親友である君たちが争うなんて――――良いぞもっとやれっ! みんなどっちに何賭けてる? 僕も参加するよ!」


「二人とも、英雄は私の男だ! どちらにも譲らんぞ!」


「女は黙ってるでおじゃっ!」「這寄さんは黙っとけ!」


「酷いなぁ、僕の彼女にそんな事を言うなんて」


「ふふっ、大丈夫だ英雄。所詮、この者達は親友止まりの負け犬だ。妻である私に敵うわけがない!」


「妻はまだ早すぎだけど……そうだね、実はみんなの前で君にプレゼントを用意してきたんだ!」


「ほう、それは興味深い」


「実はね、あの監禁事件の直前に用意してたんだけど。ほら、その時はまだ恋人じゃなかったし。あの事件の後はまだ早いかなって思ってて」


 教室に入るなり、声をかけた親友二人を放っておいてイチャイチャし始める二人。

 これには、栄一郎と天魔も顔を見合わせてがっくしと。


「…………所詮、拙者達はバカップルに負けた負け犬でおじゃ」


「いや、あれには勝てないわ。――おい、後でブラックコーヒー奢れ。そしたら愛衣ちゃん側だけど、お前の修羅場に親友として参戦してやるから」


「エテ公……お前ってヤツは……。心の友二号よっ!!」


「はいはい、んじゃあ俺は心の友三号な」


「え、僕が心の友一号?」


「あってるけど、お前は這寄さんに何かあんだろうが」「英雄殿? 這寄女史を優先してどうぞにゃ?」


「ちぇっ、僕だけ仲間外れ? まあいいや、後で聞かせてね」


「ふむ、話は終わったか? なら私へのプレゼントとやらを渡すと良いと思うぞ」


 ともあれ、英雄がフィリアに何を渡すのか。

 というかそれは、二人のちょっぴり変わった雰囲気に関係あるのか。

 クラス全員が見守る中、英雄は鞄からピンク色の小さな箱を取り出して。


「左手の薬指……は将来に取ってくとして。受け取ってくれる? フィリアの為に、ちょっと全力を出したんだ」


「英雄……これって!?」


「ま、返品は受け付けないんだけどね。右手の人差し指に――あら不思議、サイズぴったんこ!」


「ひ、英雄っ! 英雄~~~~~~っ!!」


「はいはい、これさえあれば君に悪い虫も寄ってこないでしょ。んでもって、見る度に思い出して。脇部英雄って存在は、君と共にあるって」


 えぐえぐと感極まったフィリアは、英雄の胸の中に飛び込んで。

 女子達は心からの祝福の拍手を、中にはもらい泣きする者も。

 そして男子と言えば……。


「…………いや、ちょっと英雄殿を舐めてたわ。マジだ、マジ中のマジで愛して添い遂げるつもりだわ」


「栄一郎、言葉遣いが半端になってるけど……、何処で判断したんだ? 指輪を渡すって、そりゃあマジに入れ込んでる証拠だろうけどよ」


「分からないかエテ公、俺もカノジョに指輪のプレゼントを考えるまで知らなかったがな……」


「え、あれもしかして高いヤツ?」


「少なくとも、高校生のバイトの三ヶ月で買える金額じゃない」


「………………マジ?」


「ああ、後で女子にも聞いてみろ。そもそもあの箱は有名ブランドで…………指輪に付いてるあの宝石は、世界一堅いアレだ」


 栄一郎の言葉に、クラス中が英雄を凝視。

 お嬢様育ちのフィリアも、はたと気づき抱きついたまま上目遣いに首を傾げ。


「あー、やっぱ気になる?」


「英雄殿は、ちょっと金遣いが荒いところがあるでゴザルよ? 這寄女史と同棲し始めてから、かなりマシになってきてるでおじゃるが……」


「そうだっ! 英雄が自由に出来る金額で買える代物じゃないだろうっ!?」


「え、嫌だった?」


「愛してるっ!! 私、死んでも良い! ……こ、今夜は、た、楽しみにしていろっ! きゃっ、私はなんて大胆な……っ!!」


「ありがとフィリア、君が喜んでくれて嬉しいよ」


「スゲェ……、あの這寄さんが。普通の女の子みたいに見えるっ!?」


「仏頂面が行方不明でゴザルっ!? こんなに表情豊かな這寄女史を見れるなんてっ!?」


「だから言ったじゃないか、フィリアはわりと顔に出るって。――おっとそういえば話がずれたね」


「あ、ああ。そうだった。この愛の証の指輪を購入した金の出所は何処だ?」


「大丈夫、借金したんでも盗んだんでもないよ。実は僕、子供の頃からお年玉は全部貯めてるんだ。それに……こう見えてバイト始めた高校一年の時から、毎月一万以上は貯金してたから」


「いや、でも英雄殿。これ結構なお値段でおじゃ?」


「そうなんだよね。これで今月、僕は新作ゲームも買い食いもポテチも漫画もラノベも、なーんにも買えないぐらい素寒貧さ! でも一度やってみたかったんだ! 自慢の彼女に全ぶっぱした指輪を送るの!」


「一生……一生大切にする……、ね、英雄。今日はもう早退しないか? 二人っきりで過ごしたい」


「いや、ダメだよフィリア。恋愛も学業も遊びも、全部両立させなきゃ」


「ん、……了解した」


 堂々をキスする二人に、栄一郎と天魔は己の恋人(及び仮恋人)を恋しく思いながら。


「いや、帰ってどうぞ英雄殿?」「脇部、ゴーホーム!」


 と言ったところで、帰る気配なんてある訳が無い。

 それを見越して、クラスメイト達は立ち上がり。


「ブラックコーヒー買いに行くぞ」「つき合うわ、アタシらも欲しい」「俺のもお願い」「……次の新刊はノマカプ」「先生っ!? BL魂が浄化されてますよっ!?」「流石、英雄っちだ」「人生エンジョイ勢は、恋もガチエンジョイか……」「俺、ちょっと気になる子にアタックしてくる。行動しないと何にもならないわ」「オレも」「骨は拾ってやるぞ」


 その後、ホームルームをしに来た跡野茉莉(彼氏の妹と修羅場中)は、二名を除いた全員がブラックコーヒーを飲む光景にハテナマークを浮かべたのであった。


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