第45話 お悩み相談室



 フィリアと正式な恋人となったからには、英雄としては言いふらしたい。

 となれば、真っ先に報告するのは親友の栄一郎。

 いつもより少し早くラブラブ登校し、彼が教室に姿を表した瞬間、フィリアと共に窓際に連行して。



「ぬ、ぬわー! 何をするショッカー!?」


「ふっふっふ、栄一郎には今から我が組織の怪人になってもらう!」


「仮面ノロケキクダーと言うのはどうだろうか?」


「せめてGとかノリダーが良いでおじゃっ!?」


「Gとノリダーとは何だ?」


「ああ、フィリアは知らないか」


「Gはアイドルのネタでゴザるし、そもそもノリダーは親の世代でおじゃ」


「あー、そっか。だからウチにビデオがあったのか」


「え、英雄殿は今時ビデオ持ってるでおじゃっ!?」


「実家の親父の部屋にね、もう使ってないだろうし動くかなぁ」


「ビデオか、そういえば実物を見た事がないな」


「んじゃ、今度実家行く?」


「喜んで行こう、手土産は何が良いだろうか」


「夫婦漫才を永遠と聞かされるなら、離してほしいでゴザるが?」


「おっと、本題がまだだったね」


「英雄が真っ先にお前に、と言うのでな」


「英雄殿が拙者に話……? また何でゴザる?」


 栄一郎は首を傾げて、ぐるりと思考を回す。

 朝イチで捕まったのは異変とも思えるが、行動が予測できない英雄のやる事だ。なんら不自然ではない。

 そこに、這寄フィリアが加わっているのも不自然ではない。

 ――否。


「もしかして、二人に関する事でゴザる?」


「流石だよ栄一郎、君になら分かってくれるって思ってた!」


「ふふ、この隠しても溢れ出てしまう幸せオーラの所為だな」


「えっ!? 幸せオーラ出してたでおじゃか這寄女史っ!?」


「以前なら一発殴っている所だが、今の私は機嫌が良い。――命拾いしたな!」


「ひ、英雄どのっ!? これ凄んでいるでおじゃるかっ!? それとも次はないという処刑宣告でにゃああっん!?」


「はい、落ち着いてね栄一郎。これは浮かれてちょっとジョークを言ってみたけど、顔にニヤニヤが治まらない顔だよ」


「どうして分かるでゴザるっ!? どう考えても死刑宣告する女帝の顔にゃっ!?」


「僕としては、どうしてみんな分からないのかが、分からないんだけど……まあいいや」


「そうだな、私の可愛い所は英雄だけが知っていればいい」


「僕としてはフィリアの可愛い所を自慢したいんだけどね」


「いや、表情筋はともかく。十分に言葉と態度でめんど――げっふん! 可愛い所を出していると思うでゴザル」


「そ、そうか? 私は英雄の可愛い彼女として見られているのだな……」


「それだよ栄一郎、親友である君に伝えたい事があったんだ!」


「這寄女史の可愛さなら、お腹いっぱいでゴザルよ?」


「そうじゃなくてさ」「うむ!」


 英雄はえへんと胸を張り、フィリアは彼に寄り添い頬を赤らめて。


「僕たち! 正式に付き合う事にしたよ!」


「あの都合の良い女発言とかっ、マジで言ってたのかよお前らっ!?」


「あれ? 反応それ?」


「これしかねぇよっ! どう考えてもあの騒動でマジで付き合ってるとか思うだろっ! 都合の良い女とか照れ隠しとかふざけてると思うだろうが!!」


「おい英雄、机からいつものヘンテコ語尾が抜けてるぞ。本気で言ってるようだ」


「マジかー、それはちょっと残念だよ栄一郎。僕、言わなかったっけ? フィリアってばちょっと愛が重いから暴走しないようになるまで、正式に付き合わないって」


「ちょっと愛が重いっ!? それをマジで言ってるのがスゲェよ英雄!! というか、それっ! 這寄へ牽制してるだけだって受け取るだろうがっ!!」


「まったく、栄一郎ってば驚き過ぎだって。だってフィリアだよ? いくら好意を持っててもダメなものはダメって言うのが恋人ってもんでしょ」


「俺からしてみれば? 恋人にならなきゃ殺すって感じの這寄相手に、それをマジでそれを言ってたお前に尊敬の念しかないぞ今」


「解せない、私の評価が低すぎではないか?」


「フィリアってば、顔ヨシ体ヨシ成績優秀血筋ヨシだけど。性格が良い人はストーカーとか拉致監禁しないよ? この評価は妥当じゃないかな」


「ぐうの音も出ない正論だっ! 聞いたか机! これが英雄の魅力だぞ! 私の愛に正面から対決してくれる益荒男の姿だ!」


「普段、ふざけてばっかだけど。お前はここぞと言う時に正論パンチするよな……」


「それ褒めてる? うん、褒められてるね! 流石は僕! サイコーの男だね!」


「………………はぁ、英雄殿は良いでゴザルなぁ」


 深いため息を吐き出す栄一郎は、肩をがっくり落とし。

 そして窓の外を遠い目で眺め。


「何はともあれ、親友の幸福を心から祝うでゴザルよ」


「言葉と表情が一致してないけど?」


「いや、マジで祝福してるにゃあけど。我輩の抱える問題が…………」


「ああ、そういえば。君の問題ってば何一つ解決してないっけ」


「しかも、愛衣の側には越前も参戦したからな。さぞかし頭の痛い状況だろう」


「それでゴザルよっ!! というか朝イチで話したいのはソレでゴザル! 助けてたもれ英雄殿っ!!」


「お、久々に聞いたね。栄一郎の助けてコール」


「この前言ったのはノーカンっ!? いや、まぁそうか……」


「待て、親しき仲にも礼儀アリだ。ちゃんとした言葉で言うのが道理だろう」


「――助けてくれ英雄。最終的には俺が何とかしないといけない問題だが。どうか手助けして欲しい」


「うん、分かった」


 素直に言い直した栄一郎と、即座にイエスと返した英雄。

 その光景に、フィリアは関心すると共に若干のジェラシーを覚えたが。

 ともあれ、それは後で英雄に言えば良いことだ。


「事情はチラホラ、君のお相手さんからも聞いてるけどさ」


「ああ、机の口からもキチンと聞きたい所だ」


「くぅっ、すまないっ、ありがとう!!」


「はいはい、目をうるっとさせないで栄一郎。話進まなくなるから」


「この冷静さ、頼もしいぜ親友!」


「僕は君の情緒不安定さに不安を感じるけど?」


「うかうかしてるとホームルームが始まる、手早く……そうだな。馴れ初めは聞いたし、愛衣が相手を恨む原因を聞かせて貰おうか」


「了解だ。――………………どれだ?」


「栄一郎?」


「いや、ふざけてないぞ。マジで心当たりが多くてな」


「取り敢えず、一番大きそうな原因からいこうか」


「じゃあアレだな、小学校の頃。アイツに留守番させてネズミの国にお泊まりした事だな。夜はしっぽりで」


「最後の情報って要らないよね?」


「幼い妹を放置で、自分はショタコンとデートか。――最低だな、他にもあるのだろう?」


「あー、もしかして。夏祭りに三人で行った時、はぐれた愛衣を二人で探してる間に、俺が迫って一時間ぐらい神社の裏でご休憩していた事か?」


「なんで君の性事情が二連続で絡んでるの?」


「愛衣の味方をしたくなってきたな」


「待て、もしかすると――。愛衣の誕生日会をすっぽかして、アイツの弱みの握って脅迫していた時かっ!!」


「ねぇ栄一郎? 何であの人が絡むと、そんなに残念な事になってる訳? 今から僕と一緒に、愛衣ちゃんとあの人に土下座しに行こう?」


「英雄まで土下座する必要は無いぞ、――最低だな、机」


「いやフィリア? した事が違うだけで、実は君たちってば同類だよね? 愛を理由に独占欲にかられて犯罪してる同類だよね?」


「ぐう」


「この男と同類だと!? 取り消せ英雄! 如何に君といえど言って良い事と悪い事が――――――ぐぅっ!? 反論が見あたらないっ!?」


 どよーんと項垂れる恋人と親友の姿に、英雄は曖昧な顔で微笑むしか出来ない。

 思えば、フィリアの行動の違和感に最初に気づいたのは栄一郎のようだったが。

 それは、同類故の嫌悪感から来るものだったのかもしれない。


「んー、じゃあ纏めるけど。小学生の頃で僕と出会う前。つまり君たち兄妹がご両親と不仲だった頃な訳で」


「はい、そうです……」


「たった一人、頼れる肉親の君が? 心細い妹を蔑ろにして、年上の女の人を攻略するのに夢中。しかも手段も方法も選ばずに」


「仰るとおりです……」


「栄一郎、これは本気で言うけど。……一度、愛衣ちゃんとあの人を一緒に呼んで土下座しようか。そりゃあ、あの人も罪が無いとは言わないけど。一番悪いのって栄一郎だよね?」


「ああ、俺が一番悪いんだ……」


 しょげ返る栄一郎の姿に、フィリアは同情と激励の念を送った。

 今の彼の姿は、少し前に己が通った道だからだ。

 実際に彼女は、英雄同伴で関係各所に謝罪行脚したのだから。


「となれば、これ以上拗れる前に何とかした方が良いだろう。――今度の土曜、私たちの家を貸す」


「そうだね、エテ公まで呼ぶと手狭になるけど。全員呼んで話し合おうか」


「くぅ~~、心から感謝する英雄!!」


 おいおいと泣き出した栄一郎を、英雄は優しくヨシヨシした。

 今ばかりはフィリアも、割って入らなかったが。

 次の休み時間から、栄一郎と英雄を一言も喋らせずに愛する人を独占して。

 クラスメイト全員に、砂糖を吐き出す権利を与えたのだった。


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