第38話 ヨコセ!(※今回ネタ多め)



 栄一郎と跡野茉莉の只ならぬ仲、そして小姑である愛衣との関係は気になるものの。

 どうやら話し合う前の段階で難航しているらしく、さっぱり英雄とフィリアはお呼ばれしない。

 二人だけで、愛衣とエテ公がくっつくのが先か、嫁と小姑が和解するのが先かトトカルチョをしていた数日であったが。


「……あれ? なんか校門が賑わってるね。何かあったっけ?」


「まだ朝のホームルームも始まってない時間だ、――ああ、そういえば風紀委員の服装持ち物チェックがあるな」


「それだね、…………それかぁ」


「英雄、なんだいきなり不安そうな顔になって。まさか君、ゲームでも持ってきてるのか?」


「そのまさかだね、ゲームに加えて。栄一郎に返すエロ本と花火を持ってきてる。そして――ケーキさ!」


「秘密だと言っていた箱はケーキかっ!? しかも花火まで、何故、そんな物を持ってきているんだ!?」


「いや、それがね? 今日は伊良部の誕生日だから、放課後お祝いしようと思って。学食のタエさんが冷蔵庫貸してくれるって言うから」


「タエさんの所為にするんじゃない。企画も実行も君だろう」


「友達の誕生日を祝う、友情に熱い僕に惚れ直した?」


「それが私の誕生日ならな、しかし困ったな。確実に没収されるぞ」


「え、大丈夫じゃない? ちょっと誰かに預けて、後で壁を乗り越えて戻ってくればオッケーでしょ」


「そう思うか? ならアレを聞いてみろ」


 フィリアが指し示したのは校門前、風紀委員の一段だ。

 生徒達の服装チェックと持ち物検査をしている一団の他に、鉢巻きをした者が五人。

 かれらは、風紀委員長と共に鋭く目を光らせて。


「委員長! 未だ特別警戒対象2ーBは一人も姿を見せません!」


「最大警戒対象、脇部英雄は第三チェックポイント通過を確認、五分以内に姿を見せる予想!」


「我が可愛い部下達よ! 今度こそ! 校則違反集団である2ーBを、その首魁である脇部英雄を捉え! わが校に風紀を取り戻すのだ」


「しかし委員長! 先日、怨敵・脇部英雄によって我らが姫、這寄フィリア様が陥落したとの情報があります!」


「無論、耳には入っている。――だが我が精鋭達よ! 案ずるなかれ! 這寄フィリア姫が敵に回った場合のパターンも構築済みだ! さあ、配置に戻って警戒せよ! ――――脇部英雄に正義の鉄槌を! あの羨ましいコンチクショウに鉄槌を!」


「鉄槌を!」「裁きを!」「これは祝福(物理ではない……)」「我らの逆襲である!!」


「あ、ダメだねこれ。あと十メートルも進めば補足されるなぁ……」


「だろう? まぁ、私は先に行くとしよう。頑張ってくれ」


「と思うじゃん?」


「ほう? 何かあるのか?」


「僕ってより、フィリアがね」


「私が? 私はこの通り完璧だ。ブレザーに皺一つ無し、糊の利いたシャツ、ネクタイに汚れ無し。髪もリボンも校則の範囲内だ」


「スカートとも靴もだね。でもさ…………。それ、可愛いよね?」


「うむ? それ? ……………………――――――ガッデム!」


 そう、今日のフィリアのウィークポイント。

 いつもならあり得ない筈のミス。

 だが仕方あるまい、今日は特に冷え込んでいて。

 もはや肌と一体化、気づかなかったのだ。


「いやあ、ピンクのもこもこなルームソックス。女の子って感じがして良いよね」


「英雄っ!? 気づいていたなら何故言わないっ!!」


「メンゴメンゴ、こういうミスするのって珍しいからさ。僕のフィリアは、こういう可愛い失敗もする女の子なんだって言いふらそうと思って」


「いくら可愛くても、そんなミスを自慢しようとするな!!」


「えー、良いじゃん。ギャップ萌えって言うの? フィリアってば外では特にクールなんだもん。そこにポンコツ可愛さが加われば~~、無敵さ!」


「それで窮地に陥ってどうするっ!! ああっ、校則違反をしないのが密かな誇りだったのにっ!!」


「え、前に甲冑持ち込んでなかった?」


「あれは事前に、届け出を受理させておいたからな」


「受理させておいた、の辺りが気になるけど。まあいいや、今はこのピンチを切り抜ける方法を見つけないとね」


「――――力を貸すでおじゃるマイフレンド!」


「おおっ、栄一郎!」


「へっ、水くさいな机。お前ばかりに良いカッコさせるかよ。……手を貸すぜ脇部!」


「エテ公!」


「俺も居るぞ!」「オレもだ!」「わたしもよ!」「あたしらだって忘れないでよね!」「ウチ達も参戦するよ!」


「みんなもっ!!」


「なんだお前達、仕方ねぇ生徒達だなぁ。ま、このアタシが来たからには勝利を約束してやるぜ」


「先生までっ!!」


「それで、皆は何を?」


「英雄殿に貸すエロゲ」「伊良部の誕プレのグラビアアイドルの写真集」「ゲームボゥイ(灰色)」「コミケの原稿」「ウルトラヨーヨー」「ゲームボゥイカラー」「デイブレード」「ミニ四レーサー」「釘バッド」「スイッチンでマリパしようと思って……」


「僕が言うのも何だけど、男子は自重しよ?」


「女子はどうなのだ?」


「伊良部の誕プレに三位センパイのグラビア(自作)」「BL同人誌」「カレピのトコ泊まるからお泊まりセット」「和泉守兼定(自作竹光)」「押しアイドルグループのアルバムどっさり」「努力友情勝利の漫画いっぱい」「ちょっち制服改造し過ぎて……」「アンタ、どうやったらウチの制服をアメスクに出来るのよ……」


「ちょっとなぁ、今日は終わったらネズミの国に遊びに行く予定でな。お揃いの帽子とかポップコーン入れとかな」


「跡野先生まで何をやっているのだっ!! ウチのクラスはどうなっているっ!!」


「今回は君も、そのどうなっている奴らの仲間入りさ。おめでとうフィリア」


「嬉しくない! ああ、何だってこんな日に私は。こんな可愛いソックスを…………」


「這寄女史までとは珍しい」


 集まったクラスの全員は、口々にフィリアを可愛いと誉め。

 彼女は顔を真っ赤にして地団駄を。

 だが、こうして談笑している場合ではない。

 校門が閉まる時間が、刻一刻と迫っているのだ。


「いつまでも話してたら危険だ、補足されちゃうよ」


「そうでゴザルな。して英雄殿、策はあるでおじゃ?」


「フィリアと始めとした服装違反組は、手分けして正しい制服に戻そう」


「伊良部の誕パの余興に女装するから、ねーちゃんの制服一式パクってきた!」


「でかしたエテ公! じゃあ僕からはフィリアの制服一式を」


「待て!? それなら早く私に渡せ! というか何時持ち出したのだ!」


「余興の事を未来さんに相談したら、フィリアのお古を貸してくれたんだ」


「勝手な事を! だが今は助かった!」


「男子は、アタシらの方に二着あるよ持っていきな!」


「何故、誕生日パーティで女装だの男装だのするのだ?」


「はいはい、そういうのは後でねフィリア。さ、準備準備!」


「となれば、後は違反荷物組でゴザルな」


「乱暴に扱っちゃいけないのは、僕のケーキぐらい?」


「それなら、アタシに任せろ。教師の立場なら言い訳も利く」


「それじゃあ、ケーキは茉莉センセに任せた。――先に行ってください」


「じゃあ、アタシの荷物は任せたぞ」


「責任を持って預かるでおじゃ」


 彼らの担任は、クラスの三分の一を引き連れて校門へ。

 残る問題は……。


「この大量の漫画とゲームだね」


「見抜けなかったでゴザル……剣盾ブームを逆行するように、クラスで初代が流行ってるのが仇となろうとは」


「ホントそれね、たしかエテ公のはお兄さんので無くしたりするとボコボコにされるんだっけ?」


「親のを譲って貰った奴も多いでおじゃ」


「あ、そうだ脇部! 良いもん見つけたぜ!」


「でかしたエテ公! ――んで、何見つけたの?」


「隣のクラスとセンパイがさ、背負子持ってきてたみたいで。後で返す変わりに借りてきた!」


「ああ、デススト流行ってるもんね。僕もやりたいけど、フィリアがハマって独占してるから出来ないだよね」


「もうすぐトロコンするから本体ごと貸すでおじゃ、――しかしこれは使えるでおじゃ。――紐はあるでゴザル?」


「柔道部から帯を借りてきたぜ!」「演劇部からカーテン借りてきた!」


「こ、これなら出来るでおじゃ! イケル!」


「よし、なら――わくわく運び屋ジャンケンだっ!! 最初はグー!」


 ジャンケンポンと、英雄はチョキを出し。

 他は全員、栄一郎を除いてグー。


「ま、負けたっ!! 君たち僕を生け贄にするのかいっ!! なんてクラスメイトだ!」


「くぅ、これも世の流れでおじゃ……、二人で頑張るでゴザルよ。――拙者、サムやって良いでおじゃ?」


「えー、僕が伝説の配達人やりたいんだけど?」


「どっちでも良いから、ほら準備出来たぞ!」「校門に入れば加勢してやるから」「という事で、オレらは先に行く」「遅れるなよ」「イイネ!」「赤ちゃんがあれば完璧だったんだけどなぁ」「ほら、黄金の仮面を使え。顔を隠せるだろう」


「ふっ、ゲームの難易度を下げても良いんだぞ?」


「オレはサムでおじゃー!」


 肩に腰に背中に、山盛りの荷物を持つ二人を置いてクラスメイトは全員中に入り。


「さ、行こうか栄一郎。――僕たちの戦場へ」


「行くでゴザル戦友! 我輩達のバトルフィールへ!」


 そして英雄は野球帽を被り、栄一郎は上半身裸で。

 共に、大荷物を背負って両手に抱え。

 またアイツ等かという周囲の視線もなんのその。


「次の者!」


「今日転校してきた、ヒデオ・ポーター・ブリッジです! 趣味は登山! 将来の夢は歩荷さんです!」


「同じく今日転校してきた、オールド・エイイチロー! アメリカにて狐狩部隊に所属しておりましたが、日本にて歩荷さん達のリーダーとなるべく、この高校で学ぼうと思います!」


「通ってよし! 転校生なら仕方がない、明日からは校則を覚え守るのだぞ」


「イイネ!」


「いいセンスだ……」


 風紀委員の横を二人は通り過ぎようとし。


「ね、何で腕を掴んでるのかな?」


「そうでおじゃ、我輩達は何も知らぬ転校生」


 案の定だった、バレない訳がない。 


「引き留めない訳がないんだよなぁ」「くそっ、いつもいつも楽しそうな事をしやがって!」「CQ! CQ! こちらターゲット発見! 至急増援を!」


 英雄達はそんな言葉など素知らぬ顔で、堂々と嘯いて。


「そうか、校舎を案内してくれるんだね!」


「それは助かるでゴザル」


「――――ほう、それをこの風紀委員長の前でもう一度言ってみるがいい。脇部英雄、机栄一郎」


 ならば。


「みんなっ、出番だ!」「拙者達の道を開いてくれでゴザル!!」


「ああっ! 逃げるな!」「追え!」

「二人の邪魔はさせないぜ!」「オレのトルネードマグナムに勝てるかな!」「目と目が合ったら……勝負!」「まて、アッチは剣盾だ! 通信ケーブルで繋げないぞ!」「風紀委員長! 大変です! 漫画につられ一部が寝返りました!」「大変だ英雄! エテ公が色気に惑わされ寝返った!」


 その後、一時限目にしっかりと食い込んだ乱闘騒ぎにより。

 風紀委員と2ーBの全員が、廊下にバケツを持って立たされたのであった。

 なお放課後は風紀委員も交え、皆で伊良部の誕生日を祝ったという。


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