第30話 天敵(ヤンデレ美少女)が家を燃やしたので、安アパートに連れ帰って口説くついでに更生させる。
そして、いつもの就寝時間より二時間以上遅く。
既に日付が変わった深夜である。
皆を笑顔で見送り、二人はやっと部屋に帰ってきたのだが。
「…………な、なんだこれはっ!? 未来の仕業だなっ!!」
「わーお、布団がランクアップしてるねぇ。僕知らなかったよ、二人用の布団なんてあったんだ」
「注目する所はそこかっ!! もっとあるだろう、この枕とか! なんで両方ともイエスと書いてあるんだ!」
「イエスノー枕じゃないんだ。というかフィリアってばそれは知ってるのね」
「…………昨日、少女マンガで知ったんだ」
「ご丁寧に枕元にティッシュの箱があるね、こっちのは――、ああ、コンドームの箱か。それで隣のは…………おおーう」
「なんだ? そんな期待半分、不安半分の顔で私を見るんじゃない! 何が入って――――…………~~~~っ!! わ、私は台所で寝るっ!!」
然もあらん。
未来が用意し英雄が手に取り、フィリアがのぞき込んだ箱の中には、大人の玩具が盛り沢山。
「手紙入ってるね、何々? どうか優しくしてあげてください、初心者でも手軽に扱える品を集めました。PSどれも新品です。だってさ」
「読み上げるな変な棒を手に持つなぁ!!」
「まあ待ってよフィリア、いつかは経験する事じゃないか」
「今じゃないっ!!」
「うーん、手錠を外して貰ったのは失敗だったかなぁ。中には……入ってないか残念」
「なにが残念なものか! 私を辱める気だな! この英雄っ!!」
「それってどんな罵倒なの? というか、監禁した時は望んでたじゃない」
「いざとなったら恥ずかしい! 私は羞恥で今にも死にそうだ!」
「僕の都合の良いオンナになるって約束は?」
「――――どうしても言うなら、力でねじ伏せてみろ」
「マジだね、その顔は」
台所の包丁を震えた手つきで持つフィリアに、英雄は真剣に頷いて。
「ま、今日の所は僕も良いかなって」
「随分とあっさり引き下がるんだな」
「無理強いは良くないでしょ、正直言えば僕も未経験だし恥ずかしさもあるから……二人でさ、少しずつなれていこう?」
「ますます惚れてしまうぞ。嗚呼、英雄よ……君を好きになってよかった」
「最高の誉め言葉だね! もっと言って!」
「うむ! 脇部英雄は世界最高の男だ!」
「わんもあ!」
「お尻の右下の方にある黒子がセクシー」
「なにそれ知らないよ僕っ!?」
「実は腋の臭いが良い匂い」
「マジでっ!? なんか変な病気じゃないのそれって? 怖いんだけどっ!?」
慌てて腋の臭いを嗅ぐ英雄、幸いにも異臭はしなかったが、そう言われれば不安にもなる。
「安心しろ、単に私が君の汗の臭いが好きというだけだ。勿論、隠れて自慰をした後の臭いも好きだぞ」
「何でそれでセックスを恥ずかしがるのかが分からない、というか僕が恥ずかしいよ! そういうのは言わないで! というかズルい! 僕はフィリアの体の隅々まで知らないのに!!」
「それは対等ではないな。では私の体も――……しないぞ?」
「脱ぎかけて期待させといてそれ? 僕のリピドーを刺激して楽しい?」
「正直言うと、ちょっと楽しい。いつ襲われるかドキドキするし、熱い視線が釘付けで心地よい。もう少し言うと、鼻の下が延びただらしない顔を見ると、女性として優越感を覚える」
「マジで? 鼻の下延びてた? そんなの見てませんって感じでクールな表情してなかった?」
「いいや? 私の知る限り何時如何なる時でも鼻の下を延ばしていたぞ? そうだな…………愛衣に胸を押しつけられていた時は平然としていたが」
「愛衣ちゃんは別だからね、栄一郎の妹だし、彼女は僕の事好きって訳じゃないよ。……だいぶ拗らせて性癖ヤバい事になってるのが不安だけど」
「…………前から聞きたかったが、何故そうも断言出来るのだ? 私は最大のライバル――は机兄だが、かなり手強い相手だと思っていたのだが」
「なんでそこで栄一郎が出てくるのかが分からないけど、愛衣ちゃんは――――いや、止めとこう」
「なんだ気になる言い方を……」
「ま、栄一郎まで言及しなきゃいけないからね。アイツが言うまで僕は知らんぷりさ」
英雄と栄一郎の間だにある友情に、嫉妬を覚えたフィリアは。
大股で近づき、きゅっと腕を絡ませて。
「胸があたってるけど?」
「嬉しいだろう? だがここまでだ」
「ここまで? 一緒に寝るのは?」
「変な事しないのなら」
「しないさ、だって君の事が大事だもの」
「…………色々と迷惑かけてしまったのにか?」
「フィリアだけ特別さ、――ああ、栄一郎もかな?」
「そういう所だぞ英雄、だから机兄に嫉妬してしまうんだ」
「では嫉妬深いお姫様、そろそろパジャマに着替えて寝ませんか? 今なら僕の腕枕もついてお買い得!」
「買った! は良いが英雄よ。この前はそれで次の日の昼まで腕が痺れてなかったか?」
「男として充実感のある痺れだったよ、皆に自慢したら豆腐の角で死ねって言われた」
「ふふっ、君が豆腐の角で死ぬのは困るな。麻婆豆腐を作るのに困ってしまう」
「湯豆腐も良いよね……、明日は豆腐料理にする?」
「ああ、一緒に買いに行くぞ」
「つまりデートだね?」「色気の無いデートだがな」
二人はくすりと笑い合うと、お互いの額をそっとくっつけて。
「なんでだろ、眠いのに眠りたくないや」
「私もだ。こんなにクタクタなのに、もっと君と話していたい」
「今のは英雄ポイント高いね、この調子だと恋人にランクアップも遠くない」
「それは嬉しい言葉だ、だがその為には……もっと、もっと一緒に居て私を甘やかして不安を無くしてくれ」
「フィリアが望むなら、いくらでも側にいるさ。トイレだって一緒でもいいよ?」
「馬鹿、学校の女子トイレまで着いてくるつもりか?」
「犯罪者になってまで、君の側にいる努力をするって言うとちょっと格好良くない?」
「その格好良さはいらない、休み時間の度にぎゅってしてくれれば良い」
「みんなの前で?」
「みんなの前でだ」
「キスもして良い?」
「人目が無い所ならな、君が望むなら人前でもキス出来るようにプランを練ってくれ、努力しよう」
「言質は取ったよ、ならそうだね――眠くなるまで、キスする練習というのは?」
「パジャマに着替えて、布団に入ってからなら同意しよう。だが、覚悟しておけよ? キスする度に今よりもっと英雄が好きになるのだからな」
「それは僕だって同じさ」
二人は目を閉じて、両手の指と指を絡ませて。
お互いの吐息がかかる、唇と唇が近づき――距離がゼロになって。
ゆっくりと、一、二、三、四、五。
名残惜しそうに、二人は顔を離す。
「ああ、照れてるフィリアも可愛くて綺麗だ。家を燃やしちゃったお姫様、口説いても良いかい?」
「そして更生もさせるのだろう? 出来るものなら、やってみるが良い」
柔らかく微笑むフィリアの姿に英雄は見惚れ、そして顔を真っ赤にして抱きしめて。
「なんで僕、大事にするって約束したんだろう。今すっごく滅茶滅茶にしたい」
「約束は守ってくれるんだろう、男の子?」
「男の子だからね、約束は守るさ」
「残念そうに言うんじゃない、君はただの男の子じゃなくて。――私の、王子様なんだからな」
「その言葉が聞けて光栄さ、僕のお姫様」
そのまま二人はゆったりと過ごし、手を繋いだまま幸せに眠りについた。
一章・了
二章に続く。
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