第23話 Help me,Eiichiroooooo!!
英雄が逃げ出した先は、学校だった。
朝練で来ていた生徒が中学のジャージを来て爆走する姿に不信感を持ったが、それが英雄だと判明すると納得したように頷いて。
当の本人はと言うと、体育倉庫に一目散に駆け込んで栄一郎に連絡。
そして三十分後。
「英雄殿ーー? 英雄殿ーー? 生涯の親友である机栄一郎が来たでゴザルよーー?」
「しっ! 声が大きい栄一郎! 早く中に入ってっ!!」
「この引きずり込まれる感じ、何だか既視感を覚えるでゴザル」
「そんなの良いから!! はやく扉を締めて!!」
「はいはい…………、扉に耳を当てて何をしてるニャ? スパイごっこ? 我輩、愛犬を殺された殺し屋の役やっていいでおじゃ?」
「それスパイじゃないよっ!? じゃなくて、僕は今狙われているんだっ!!」
「狙われてるとは物騒な、誰ににゃ? 英雄殿は敵も多いけどそんなに恨まれてない筈じゃがにゃぁ……?」
腕を組んで首を傾げる栄一郎に、英雄は真剣な顔で告げた。
「僕は……、フィリアに狙われている」
「成程、恋愛的な意味でおじゃね? 色惚け相談なら帰るでゴザル」
「はいはいストップすとーっぷ! マジだから帰んないでお願い! 僕も良く分かんないけどヤバいんだって!! 助けて栄一郎!!」
「ぐぬぉっ!? 足にしがみついてまでっ!! え、マジでおじゃるか英雄殿? 何時になくマジ顔もカッッコイイでゴザルが」
「お世辞ありがと! でも本当にそれどころじゃないの!」
「分かった! 分かったから足を噛むな英雄!」
「お、いつものおふざけモードが消えたね? やっと分かってくれたか」
「口調で判断されると微妙な気分になるが。まあいい、――何があった」
「フィリアがヤバい」
「お前はもう少し冷静になれ、それじゃあ分からない」
「フィリアが超超ヤバい」
「具体的に」
「朝起きたら美少女が朝ご飯作ってた」
「帰る」
「待って! まだ続きがあるの!」
「今の英雄はボケてるのか分からんぞ?」
「僕は本気! 本気で困ってるの! フィリアがヤバいで僕は超絶困惑して身の危険を感じてるんだって! マジで何時からだったんだよ!?」
「くっ、可愛そうにこんなに怯えて……、俺が質問するからそれに答えろ、今はそれだけしてくれ」
「ああ、頼むよ親友」
そして栄一郎は真顔で言った。
「お前の今日のパンツの色は?」
「フィリアが買ってきたくまさんトランクス――じゃないよっ!? 君までボケないでっ!?」
「はは、スマンスマン。お前が何時になく慌ててるからな。……それで、取りあえず朝起きた事を順に話してくれ」
「頼むよ栄一郎……。それで、えーっと。朝、僕はいつもの様に美少女が味噌汁を作っている音で目覚めた訳だ」
「全世界の男子が羨むシチューエーションだな」
「熟女趣味の君でも?」
「相手が熟女なら、じゃなくて俺の趣味はいいから続きだ。それから?」
「昨日、フィリアのメイドさんがアルバムを持ってきてくれたんだ」
「メイド……それも聞きたいがまぁいい。それで?」
「二冊あってさ、片方は本当にフィリアが幼い頃のアルバムで、もう片方は重要な書類を入れたダミーアルバムだって」
「見えてきたぞ、寝ぼけたお前は間違えて重要な方を開いてしまったと」
「そう、それっ!!」
「だが、何故それで怖がる? 俺に助けを求めてきた? ――――もしや奴の会社の不正の証拠!? それとも犯罪の!? 安心しろ! 俺が父に頼んで警察上層部と政治家に掛け合って……」
「そういえば栄一郎、良いとこのお坊ちゃんだっけ、家政婦の三田さん?」
「それドラマの主人公」
「ああ、三田苑さんだっけ」
「それもドラマの主人公! 俺の家の家政婦は市原悦子――じゃねぇよ!? 俺まで移ったじゃないか!?」
「ボケに乗ってくれる栄一郎が、僕は大好きさ。……ああ、ちょっと落ち着いてきた」
「……まぁお前が落ち着いたなら、それで良いが」
「というか栄一郎が真面目モードに入るから、こっちも調子が狂ったんだけど?」
「帰るでおじゃ」
「嘘嘘! 僕、君の真面目モード超カッコいいと思って嫉妬しただけ!」
「ホントでゴザルかぁ?」
「君が真面目モードすると女の子達が騒ぐから、嫉妬してたけど。今の僕にはフィリアが居る――――そうだ、フィリアだ、今はフィリアがヤバいんだった! とんだ地雷女だよアイツ!! アイツを宿命のライバルだと思ってた僕は間違っていなかった!」
「あわよくばセックスしようとしてたのにでおじゃ?」
「外見はピカイチだし、同棲してみれば素敵な可愛い女の子だったからね。話も会うしサイコーだよ!」
「でも地雷判定したでおじゃるな」
「聞いてよ栄一郎、かくかくしかじかって訳でさ!」
「まるまるうまうまって奴でゴザルな? してかくかくしかじかとは?」
「伝わってなかった!?」
「伝わるのはマンガやゲームだけでゴザろうにゃあ……」
現実ってのは不便であると妄言を吐きながら、英雄はゲンナリした顔で口を開いた。
勿論、一度体育倉庫から首を出して周囲を伺い。
念のために跳び箱で入り口を塞ぐのも忘れない。
「そんなに厳重にして、どうしたでおじゃ」
「どうもこうも無いよ、……アイツさ、僕のストーカーだったんだ」
「となると、重要な書類という話は」
「嘘だった、中身はここ数日の僕の調査記録! 学校のトイレで何秒ションベンしたかまで書いてあるんだぞっ!?」
「…………それは、また」
「しかもその記録! 第六千三十六とか書いてあったんだ! 絶対今回だけじゃない!」
「ははぁ……、我輩。ちょっと見えて来たでゴザル」
「流石だよ栄一郎! 僕は君を誇りに思うよ!!」
「して、他に何か情報は?」
「そうだね、実は最近のじゃない写真があったんだ。僕の小学生の頃のが一枚」
「小学生というと、拙者と出会う前でゴザルな? 英雄殿が自分が戦隊モノのレッドになると豪語してた頃の」
「自分の名前が英雄だったからねぇ……いつかヒーローになる男だって思ってたんだ。親父が戦隊ヒーローのふりして僕を騙してたせいもあるけど」
「……小学生でも気付くのでは?」
「それがさ、プロのマジシャンに頼んで僕の前で変身装着したり、必殺技出したり、秘密基地という名のセットに連れて行ったりしてたんだ。一応、子に夢を持って欲しい親心というか、僕が保育園の時に信じたヨタ話を嘘だとバラすのは申し訳ないとか言ってたけど」
「そういえば、前に聞いたでおじゃるな。確かそれで人生エンジョイ勢になったとか」
「僕は思ったね、ヒーローが実在しないのは残念だし、僕も大怪我して親に大泣きされてヒーローなんてなれないって思ったし。でもさ、――親父が人生楽しそうに見えたから」
「同じように、人生を楽しくしようと?」
「うん、僕自身と僕に関わった人が人生楽しくあれば良いなって」
「良い話でおじゃ…………話はスッゴくそれたでおじゃが」
「――はっ!? そうだよっ!? 今はフィリアの事だよっ!?」
ムンクの叫び状態になった英雄に、栄一郎は真顔で問いかけた。
「それで写真の事にゃけど、……本気で気付かないとは言わせないにゃ」
「まあ、ね。金髪の太った小学生の男の子、この状況で流石に気付かないって事はないさ。でも今の彼女と繋がらないし、何でストーカーしてるのが分かんない」
「本当に?」
「………………僕だって察しはついてる、けどマジで自信ない」
「まぁ無理からぬ事にゃあね、拙者だって今一つ確信が持てないのでおじゃ」
「だよねぇ……」「にゃあす……」
二人は顔を付き合わせてため息。
彼女の行動を思えば、そうなのだろうな、とは思うが。
何故こんな事を? と首を傾げざるおえない。
なにしろ彼女は学校どころか日本、否、世界から見ても美少女で金持ちで。
いつも自信満々で。
同棲前の仲の悪さは、彼女なりの考えがあったのだろう。
本当に嫌いだったら同棲などしない。
「…………、そういえば英雄殿のお父上も傑物でおじゃったな。そっち関係で何かあって、とか?」
「それも有りそうだから、確信が持てないんだよねぇ……、親父の事を何とかする為に同棲を受けた。とか?」
「ありそうでおじゃ……、情報が集まるまで耳に入れたくなかったにゃあが、もう一つ悪い話があるにゃ」
「この際だから言ってよ」
「這寄女史の家、燃えたでおじゃろう? あれ、自作自演の可能性アリにゃ」
「……………………マジかー。全部掌の上って?」
「燃やすに至ったトリガーに心当たりがあるでにゃあが、それも確認が取れてないにゃ……」
「というか、同棲の話を受けてくれたのも実は僕、結構納得いってないし、良い雰囲気なのに恋人になってないのも割と不可解」
「家を燃やすぐらいなら、正面から告白したり、体を使って英雄殿を籠絡した方が早くて正確でおじゃるのに」
「それな、好意以外に裏がありそうだし、そもそも普通、好きな人の調査を六千回以上する?」
「…………」「…………」
「わっかんないよ!?」「どーなってるでおじゃっ!?」
「――――ほう、やはり此処に居たか」
その瞬間、二人は抱き合いながら飛び上がって驚いた。
いつの間にか、彼らの後ろにフィリアが居たからだ。
「見て栄一郎! 僕の作ったバリケードが無い!?」
「ば、馬鹿なっ!? 音もなくどうやってそんな事をしたにゃっ!?」
「ふふ、私のメイドは優秀でな」
「未来さん凄いっ!? でも僕ピンチ!」
「安心しろ、今は取って食うつもりは無い」
「後ででゴザルな、分かります」
「茶化すな机、――ああ、英雄。君の気持ちは分かる、随分と不安に思っただろう」
「不安というかねぇ……、身の危険を感じたんだけど?」
「なに、私とて鬼じゃない。君の疑問には誠意を持って答えようじゃないか。……但し、証拠が手に入ったら、だ」
彼女はいつものように仏頂面で、しかしそれが故に英雄と栄一郎に恐怖を与えた。
「し、質問があるでおじゃるっ」
「許可しよう、言え」
「我輩の助力はアリでおじゃ?」
「許可しよう、以上か? では期限を切ろう。そうだな……明日の放課後に答え合わせといこうではないか」
「ヒント! フィリア、ヒントが欲しいよ!」
すると、彼女は本当に珍しく満面の笑みをして。
英雄の胸ぐらを掴み、勢いよく顔を近づけて。
「殴るの――――っ、…………うん? あれ?」
「は、はわわわわわっ!? わ、我輩! 目撃二十四時してしまったでゴザルぅっ!?」
「え、あれ? 唇に柔らかいものが?」
「……ばーか、今のは目を開けておく所だろう? では、な。私は恥ずかしいから今日は授業を受けずに帰る」
去って行くフィリアを姿を、英雄は呆然と見送って。
「くそうっ!! 僕を混乱させるつもりだなっ! その手には乗らないぞいやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! フィリアにマジのキスして貰ったぁ!! しかもほっぺじゃなくて唇にだよっ!! 僕は幸せ者だねっ!! でもマジ意味分かんないっ!!」
「これ以上に無い程、分かりやすい答えでおじゃったが? ちゃんと見てた英雄殿? 這寄女史、耳どころか全身恥ずかしそうに真っ赤にして帰ってったでにゃあよ?」
「ああ! 正面から見たかった! 今度見せて貰う! あと、調査よろしく! 僕も手伝うから何でも言って! 今なら何でも出来る気がする!」
「うーん、英雄殿が幸せそうならそれで良いでおじゃるが。まぁ名乗り出たからには、親友であるでおじゃし、一緒に頑張るでおじゃるよ」
そして二人は、様々な人物に聞き込みしたり、火事現場の後を調べたり。
昼寝もしないで夜はぐっすり寝て、翌日の放課後を迎えたのであった。
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