第21話 気になるアイツ



 学校生活も私生活もエンジョイし、そろそろフィリアも巻き込んで学校で何かやろうか? などと英雄考えている英雄の、今一番の悩みと言えば。

 絶賛手繋ぎ登校中フィリアの事、――ではなく。


「そういえばさ、ちょっと協力して欲しい事があるんだ」


「ふむ、唐突だな英雄。先に言っておくが君の悪ふざけには付き合わないぞ」


「つれないなぁ、きっと楽しいよ?」


「君を止める事で先生方からの評価を上げる方が、私には楽しい」


「またまた良い子ぶっちゃって……、いつも何処かで指くわえて見てたりしてるよね? 止めるのやけに早い時あるし、何なら提案する時点で割ってはいるよね?」


「愛のたまものだと言ったら」


「そりゃワンダフル&ハイパーハッピーだよ、でもダウト、もしそうだったら僕とフィリアはベロチューする仲になってるよね」


「…………君は実に愚かな人間だな、愚鈍と言い換えてもいい」


「全然言い換えてないっ!? むしろ少し悪化してるよねそれっ!?」


「話はそれだけか? なら英単語を覚えながら行きたいのだが」


「いくら僕と手を繋いでるって言っても、それ限度があるよね? 事実、昨日はそれで電柱にぶつかったじゃないか」


「それは君の誘導が下手だ、私の好感度を上げるにはもっと献身的に尽くす事が重要だぞ?」


「言葉通り尽くしたら、奴隷は要らないとか言い出すでしょフィリア」


「――ふむ、それはそうだ。よし、君にフィリアポイント十点をあげよう。頑張って貯めるんだ」


「え、何それご褒美あるのっ!?」


「まず十点ひとつで私の直筆サインをあげよう、二十点で判子だ。五十点ではそうだな……、ほっぺにチューを一回する権利をやろう」


「セックスは?」


「往来でセックスと言うな、減点十ポイント。この分だと君の本懐を達成するには一年以上かかりそうだ」


「マジでっ!? ちゃんと貯めれば出来るって事っ!? ――――つかぬ事をお聞きするけど、そのポイント制度って僕だけだよね?」


「おずおずと上目づかい、ポイント二十! そしてそれは愚問というものだ、醜い男の嫉妬を縋る様に私に向けて、女としての優越感を擽るとはやるな英雄」


「…………フィリア、君ってドSっぽい所あるよね」


「さて、どうだかな。――話は終わりか? 英単語に戻るぞ――しまった! 両手が塞がっている……、英雄、君が英単語帳を開いてくれ」


 フィリアの頼みに、英雄は首を横に。

 話はまだ終わっていないのだ。


「まだ僕のターンは終わっていないよ。で、協力して欲しい事なんだけど」


「悪ふざけでは無いのか?」


「それも楽しそうだけどね、今日はこっちが本題。――栄一郎の事なんだ」


「机の? サプライズ誕生日でもするのか? ……いや、机の誕生日はまだ半年先か」


「それはもう考えてあるけど、最近さぁ栄一郎ったら付き合い悪くって」


「……ふむ? 学校ではいつも一緒にいるじゃないか。放課後も偶にウチに来てゲームをしているし、君と二人で遊びに行っている」


「と思うでしょ、でも違うんだ。確かにフィリアと一緒に暮らし始めて、放課後栄一郎と過ごすのは減ったけど…………ええと、そう、憶えてるかな? 茉莉センセから相談」


「ああ、続きが気になるのだが話す機会もないし、彼女はその話題を避けている節がある」


「それは僕も気になるけどね、あの日ぐらいから放課後だけじゃなく休憩時間もふらっと消える事が多くなって」


「どの程度だ?」


「おおざっぱに、一日に一度は消えてるね。最近は弁当も増えたのにお昼消える事が多くて」


「成程? 学食派の彼が弁当持参、そして同じく私の手作り弁当を持参している君と一緒に食べない」


「絶対に何かあるよね!!」


「ああ、これは……――女だな」


「やっぱり!! そうだと思った!! きっと熟女の手作り愛情弁当を持って、近所の公園とかでお昼してるのに違いない!!」


 拳を振り上げる英雄、フィリアと言えば顎に手をあて深く思考して。


「――――成程? 机が学校を抜け出している可能性があるのか…………ふむ、校則違反した所を捕まえれば、ヤツの弱みを握れるという寸法か! でかした英雄!」


「そうだけどそうじゃないっ!? 弱みを握るって何さ!?」


「知らないのか英雄? ヤツは成績上位者だ、かくいう私も成績上位者でな」


「いや、知ってるけど?」


「なら分かるだろう……、真の成績上位者は! 一人で! 十分だ!」


「わお欲望丸出し~~。まあいいや、それじゃあ頼んだよ!」


 そんな訳で、学校に着くなり栄一郎を監視し始めた二人であったが……。


「じぃーーっ」


「…………英雄殿? 休憩時間の度に段ボール被って拙者を見るのは何故でゴザル?」


「じぃーーっ、じぃーーっ」


「聞いているでおじゃ? 何か計画しているなら我輩も一枚噛ませて欲しいにゃ?」


「しっ、栄一郎! 僕は今、重大な任務に付いているんだ!! 今の僕は裸の蛇と呼べ!!」


「無限にアイテム使えるバンダナ要るでおじゃ?」


 英雄は段ボールを脱ぎ捨て、待たせたな! と言いながら上半身裸になって。

 昼休憩なので周囲のクラスメイトからブーイングが飛ぶが、そんなもの構ってはいられない。


「サンキュー栄一郎! いや、大佐! 似合ってる? というか何で持ってるの?」


「ふっ、こんな事もあろうかとっ!! こんなこともあろうかとっ!!」


「大事なことなので二回言ったね?」


「拙者は英雄殿のお力になれるよう、いつも準備万端でゴザル、英語で言うとレディ・パーフェクトリー」


「大丈夫? パクってないその台詞?」


「昨日ちょっと夜更かしして読んでしまったにゃ……、ところで誰を監視してるのじゃネイキッド英雄殿」


「それは――――、君さ栄一郎。僕は今、君を監視しているんだぜ!」


「な、なんと拙者をっ!? まさか――、誰かに狙われてっ!? 英雄殿はその護衛でおじゃるな!? くっ、この前ナンパされた熟女、外見タイプだったけど中身が地雷にゃんで断ったのが原因にゃね!?」


「んー、それちょっと詳しく聞いて良い?」


 曖昧な顔で首を傾げる英雄に、栄一郎は女を誘うような笑みで彼の顎を撫でて。


「お子さま程度の下ネタは好きだけど、アダルティな下ネタは苦手な英雄殿に耐えられるかにゃ?」


「その手を離して? あと大人な下ネタは苦手なんじゃない、親友である君の生々しい話を聞きたくないだけ」


「嫉妬にゃね?」


「親友の女関係に嫉妬するって、それホモじゃない?」


「ボーイズラブの線もあるでおじゃ」


 二人を顔を見合わせると、がばっと抱き合って。


「…………栄一郎! 僕は君が居ないと寂しいんだ!?」


「拙者もでゴザル、英雄殿が居ないと生きている気がしないのでおじゃ!」


「二人は?」「親友!!」


「いえーいハイタッチ!」


「いえーいハイタッチ! ――では英雄殿、拙者はちょっと行く所があるのでこれで。午後の授業で会うでゴザル。アリーデヴェルチさよならにゃ!」


 女物の弁当袋を片手に、いそいそと教室を出た栄一郎を見送った後。

 英雄はスマホで、廊下でスタンバイしているフィリアにもしもしと。


「こちら英雄、星は行動を開始した! オーバー?」


「了解、こちらも尾行を開始する。オーバー?」


「検討を祈る、五分後にこちらも後を追いかける。オーバー?」


「コピーザット、五分と言わず十分かけてちゃんと弁当を味わってから来い。オーバー?」


「了解、マイラブ。君は食べたの? オーバー?」


「心配するな、早食いは得意なんだ。では任務を遂行する、以降の指示はメールを待て。オーバー」


 英雄はそわそわしながら弁当を堪能し、そして。

 フィリアと言えば、栄一郎を追って行動開始。


(ふむ、やはりか……。学食にも購買にも行かずに別の所へ)


 二階の教室から三階へ、それから反対側の外階段を降り。


(わざと遠回りしているな、これはますます怪しい)


 そして一階の理科準備室に入り、フィリアは窓からこっそり伺う。


(――っ、窓から外に出た!? あっちにあるのは体育倉庫だな)


 フィリアは慌てて下駄箱に向かうと、律儀に履き替えて栄一郎の向かった先へ。

 だがそこには誰もおらず、扉に耳を当てても物音一つしない。


「チッ、見失ったか」


「――――目的は達成出来たでおじゃ?」


「後ろっ!?」


「はいはーい、這寄女史の愛する英雄殿の親友、机栄一郎でござい。……それで、英雄殿と一緒にこそこそしていた様だけど何が目的でおじゃるか?」


「ふむ、誤解がある様だな。私と英雄は関係ない、……ちょっと散歩をしたくなってな」


「英雄殿も、素直に聞いてくれれば良いのににゃあ」


 普段と変わらぬひょうひょうとした変人ぶりだが、彼の眼光は鋭く。

 フィリアには、むしろ此方の方が机栄一郎という人物の本質に見えた。


「はっ、聞いた所でその様子だと誤魔化すだけだろう」


「おお、怖い怖い。いつもより気迫が籠もっているでおじゃ」


「ぬかせ、毛の先程も怖がっていないだろう。――で、英雄にも内緒で何をしている」


「英雄殿に害が及ぶなら、黙っていないって? 心配いらないでおじゃよ」


「どうだかな。だいたい、貴様は以前から怪しいと思っていたのだ」


「ええ~、そうなんでゴザルぅ? 拙者、怪しい者じゃないでにゃあよ、ぷるぷる」


「たわけ、机家と言えばこの辺りでも名のしれた古い家で元々は華族ではないか。そんな貴様が成績優秀なのに関わらず、どうしてこの市立高校に通って英雄の親友をしているのか」


「そっくりそのまま返すでおじゃよ。――――お前、英雄に近づいて何をしている」


 偽りなど許さない、と殺気だった彼にフィリアは片眉を上げて。

 いつも以上の鉄面皮で鋭く睨む、やはり、油断なら無い人物だったようだ。


「分かってるんだ、お前が俺達が入学する前に俺の家を探偵に見張らせていたのは」


「さて、何のことだかな」


「俺が英雄についた盗聴器や盗撮カメラを何個潰したと思う?」


「初耳だな、だが私が居る以上大丈夫だ。全て私に任せておけばいい」


「…………火事の証拠を握っていると言えば?」


 途端、フィリアは鬼のような形相をして言い放った。


「証拠があるのなら、犯人を捕まえておけ! ああ、これは忠告だ! これ以上その件に関わるというなら――――、貴様は、死ぬ! 私の英雄への愛によってだ!! 覚悟しておけ!」


「…………………………なぁ、なんで俺にそれが言えて、何故お前は英雄と付き合ってないんだ?」


「うっ、そんな呆れた目で見るんじゃないっ!! 憐れむな!!」


「ならこうしよう、俺の行動は気にするな。代わりに英雄との仲が進展出来るように協力する」


「ほう? 貴様、私を買収する気か? 私がそんな話に乗る女に見えたか?」


 フィリアはメンチを切りながら、栄一郎に近づいて。


「よし! 話は決まった! 机栄一郎、貴様の事情は英雄には適当に誤魔化しておく!」


「うーん、この英雄殿とどっこいどっこいのチョロさ、お似合いのカップルにゃね?」


「ははは、もっと誉めろ誉めろ! ではな!」


 英雄へのメールを送りながら、機嫌良く去っていくフィリアを見送って。

 栄一郎は深いため息を一つ。


「…………もう行った。出てきて良い」


 そして体育倉庫から出てきた茶髪の大人の女性は、手だけを出して彼を中に引っ張り込み。

 不機嫌そうにキスをした。

 もし英雄がその場に居たら、相手の顔が見えて驚愕しただろうが。

 居なかったので、栄一郎の恋人兼同棲相手は不明のままに終わったのだった。


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