Ne.20『未来の江戸の、江戸前ロボット』

根岸「空を自由に、飛びたいなー!」


佐原「はい、天守閣ぅ!」


根岸「……」


佐原「あんあんあん、とっても大好き、江戸えーもんー」


根岸「待て」


佐原「なんでぇ、根岸くん」


根岸「空を自由に飛びたいんだ」


佐原「ほい、天守閣ぅ!」


根岸「なんだそれ、飛ぶのか。天守閣」


佐原「飛ぶに決まってんだろぃ! こちとら天守閣だぞ! 江戸城の!」


根岸「江戸城の……」


佐原「町民を上から見下ろしたいってぇ願い、叶えてやんよ! バカ殿が!」


根岸「ああなるほど解釈が違う。別に見下ろしたいわけじゃないんだ。飛びたいんだ」


佐原「あー」


根岸「オーケー?」


佐原「空を?」


根岸「そう、空を」


佐原「宙乗りか」


根岸「歌舞伎じゃねぇよ」


佐原「ワイヤーがいるな」


根岸「自由に飛ばせろよ」


佐原「うるせぇなてやんでぃ! バカ野郎てやんでぃ! めんどくせぇてやんでぇ!」


根岸「なんだその語呂の悪さは!」


佐原「空は諦めろ! 他にしやがれってんだ他に!」


根岸「えぇ……」


佐原「ほら、いくぞ」


根岸「いくのか」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「ワン、トゥー、ワントゥースリーフォー」


根岸「ズン、チャ、ズンズンチャ」


佐原「あんなこっといっいな!」


根岸「でっきたらいいな」


佐原「さあ、今度はなんだ」


根岸「世ぇー界旅行に、行ーきたいなー」


佐原「はい、通行手形ぁ!」


根岸「……」


佐原「あんあんあん、とっても大好き、江戸えーもんー」


根岸「待て」


佐原「なんでぇ」


根岸「これ、国内じゃね?」


佐原「関所を通って隣の国に行けるだろうが!」


根岸「国っ……、ああ……、ええと、海外。ワールド」


佐原「わぁるどぉ?」


根岸「そう、海の向こう」


佐原「佐渡島か! じゃあはい、罪人の入れ墨ぃー! ほら額出せ。犬って彫ってやる」


根岸「やっ、やめろっ! 違う、佐渡島じゃない!」


佐原「となると、九州か四国か。蝦夷ってこたああるめぇ」


根岸「海の範囲が狭い! 脳内鎖国でもしてんのか!」


佐原「バテレン!?」


根岸「ああそうバテレン。それでいいよ。海外旅行に行きたい」


佐原「そりゃおめぇ……、売られたいってことかい?」


根岸「売るなよ! 旅行に行きたいんだよ! 労働しに行きたいんじゃないよ!」


佐原「ええいうるせぇてやんでぇ! バカてやんでぇ! めんどてやんでぇ!」


根岸「変な言葉が生まれている」


佐原「次だ次! 江戸えもんにできること言いやがれよ!」


根岸「えぇ……」


佐原「ったく」


根岸「何ができるんだよ江戸えもん……。っていうか何者なんだよ……」


佐原「未来の江戸の、江戸前ロボットぉ! どんなもんだい僕、江戸えもん! っとくらぁちくしょうめ!」


根岸「声が大きいんだよ江戸えもん」


佐原「あぁ?」


根岸「威圧するな威圧。そうだなぁ、じゃあ、お小遣いが少ないからなんとかして」


佐原「働け!」


根岸「身も蓋もねぇな」


佐原「今日生きる分は今日稼ぐ。明日のことなんか知ったことかい。それが粋ってやつだろぅ?」


根岸「だろぅ? じゃねぇよ、要するにお前も一文無しか」


佐原「ああ、さっきコロッケ買って食ったからな。もう素寒貧よ」


根岸「コロッケ……」


佐原「コロッケ。大好きだ」


根岸「……そこはどら焼き買っとけよ。未来のロボットとして」


佐原「……あ?」


根岸「ん?」


佐原「コロッケをバカにしてるナリか?」


根岸「キャラも語尾も変わった」


佐原「コロッケをバカにするやつは承知しないナリよ?」


根岸「してないしてない」


佐原「ならいいナリてやんでぇ」


根岸「キャラが江戸っ子なのかカラクリロボットなのかすごくあやふやだな」


佐原「着物にちょんまげで、江戸前ロボットのオイラが江戸っ子でなけりゃ、なんだってんだい」


根岸「どっちもいけそうなんだよ」


佐原「あぁ?」


根岸「というかそもそも」


佐原「そもそも、なんでぇ」


根岸「未来の江戸って何だ。日本はどうなったんだ」


佐原「ん、ああ。知りたいかい?」


根岸「まあ、気にはなる」


佐原「未来のことなんてどうでもいいじゃねぇか、今日さえよければそれでよし、明日は明日の風が吹く。風が吹いたら桶屋が儲かる。それが江戸っ子の粋ってもんだろ?」


根岸「まあ、教えてよ」


佐原「しょうがないなぁ根岸くんは」


根岸「その口調だけは未来のロボットなんだよな」


佐原「復活した第六天魔王が――」


根岸「いきなりすげぇことに! 信長復活したのかよ」


佐原「ああ、んで、サムライとニンジャと鉄砲隊で地球統一を成し遂げた後――」


根岸「やれそうにない兵力ですげぇさっくりと世界が堕ちてる」


佐原「日本を鎖国し、江戸幕府を開いた」


根岸「急にスケールが歴史っぽくなった。というか信長が江戸幕府開いたのか」


佐原「いいや、その後徳川が天下統一して、江戸幕府を開いたってわけだな」


根岸「歴史、繰り返してる」


佐原「で、今に至るってぇわけだな」


根岸「はー、フィクションかよ」


佐原「ほらじゃあ、他になんかあるかい? ねぇなら帰るぞ」


根岸「えぇ……、じゃあ、いじめっこに復讐したい」


佐原「てつはうー!」


根岸「なんだこの丸い塊」


佐原「花火みたいなもんだな。火をつけてから投げつけろ。殺傷力それなりにあるから気をつけろ」


根岸「いじめっこを殺したいわけじゃないんだけど」


佐原「鳴かぬなら殺せって魔王様も言ってたろうが」


根岸「えぇ……」


佐原「花火も祭りも、火事も喧嘩も江戸の華ってな!」


根岸「えぇ……」


佐原「他にあるかい? 江戸えもんにできること言えよ」


根岸「いや、うん、なんかもう、大丈夫。特にないわ」


佐原「ああじゃあ、帰るな」


根岸「ああうん、さよなら」


佐原「と、その前に」


根岸「なんだ」


佐原「晩飯くらい作ってってやるよ」


根岸「……なんで。っていうか料理はできるのか」


佐原「洗濯物もたまってたら出しときな。掃除もしといたらぁ」


根岸「……」


佐原「てやんでぇべらぼうめぇ! なんだやんのか!」


根岸「家事と喧嘩が好きなのか」




閉幕

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