1‐3 プリーシンクト
再び、警報。男性ボイスが、
「ヴァロ三号機、早急に出動準備」
と告げた。
「あなたたち司令部として、クリスタルを使えって言うのね……チハル」
「はい」
「申し訳ないけど、頼まれてくれる?」
正直、ためらった。今の獣と戦えって言うのか。操作方法すら知らない僕が。
でも迷ってる暇は、選べる選択肢は、既にないのだろう。
「分かりました」
「……ありがとう」
ミオコはチハルの手を引くと、管理施設に走り込んでいく。そこでは多くの作業員が、パイロットの到着を待っていた。
「彼が搭乗します。サポートをよろしく」
「了解。パイロットは操縦室のハッチへ、急いで」
「こっちよ」
ミオコを追って、ヴァロシャイムの胸部を取り囲むように設置された、デッキにのぼる。
「こんな形で渡すなんて、思ってもみなかったけど」
と胸ポケットから、小さな黒い箱を取り出す。
「カタワレっていう、ヴァロを操縦するための必須アイテム。ヴァロ内部のココロがカタワレと同じで、カタワレとあなたの心がシンクロすることによって、操作できるの。
詳しくはまた話すわ。ともかく今は、こちらの言う通りに動いて」
箱を手渡される。ふたを開けると、宝石が付いたペンダントが。
「一言の呪文で効果は発動する。レイメイ、胸に鉱物を当てて、ほら」
首から下げると、ちょうど胸のあたりに宝石がきた。
「レイメイ」
小さく唱えると、ホワンと鉱物が温かくなった。シャツの上から触ってみるが、何の変化もない。こんな時にもかかわらず、不思議に思ってじっと見つめてしまった。
「チハル」
「は、はい」
「突然にごめんなさいね。乗ってくれただけで、感謝するわ」
背中を押され、開け放たれたヴァロの後頭部―操縦室ハッチから入っていく。一面のフロントガラス以外には、いくつかの機材が並んでいるだけで、操縦席のようなものはなかった。
「あの、僕立ったままですか」
「そうよ」
フロントガラスの端っこに、ポケットに手を突っ込んだカオリが映し出される。
「シンクロするってことは、機体があなたの体になるってこと。右手を動かそうとすれば、ヴァロの右手が動く。そうやって操縦するから、身動きが取れるようにしてあるの。
慣れないかもしれないけど、頑張って」
「はい」
画面が消える。
「全ロック解除。ヴァロ三号機、起動」
操縦室の照明がつくと、急に体が重くなった気がした。グッと床を踏みしめる。
「第三ゲート開閉。総員、シェルターに退避」
霧の奥に、人工的な光が見える。ここからは、一人しかいないんだ。チハルは頬をこわばらせながら、一歩ずつ踏み出していった。
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