第八話 吸血鬼とヴァンパイア・ハンター

 よもや、ジェネシスさんが『月刊! イモータル』の読者だとは、まさか思ってもおりませんでした。偶然にも、立ち読みをしていたところ、たまたま原稿をお読みになったということです。電話口でそう語っておりました。


 もちろん、無力なヴァンパイアであるこの私が、電話越しにお返事することなどとうていできませんが、先方は、どうしてだか私が言ったことが分かったようです。


 私がジェネシスさんに語ったとされるいくつかの単語はまったくもって誤解であるというほかありませんが、それはある意味で、長年の付き合いのなせるわざというものです。


 誠に勝手ではありますが、今回は予定を変えて、ヴァンパイア・ハンターについて。とくに、『ヴァンパイア・ハンター協会』について述べようと思います。


 ヴァンパイア・ハンター協会は、NPO(非営利組織)です。原則的に、フィクションの中以外のすべてのヴァンパイア・ハンターはヴァンパイア・ハンター協会に属しています。

 以下に、ヴァンパイア・ハンター協会のホームページから文章を引用させていただきます。


”我々全米ヴァンパイア・ハンター協会は、福祉活動の一環として、『ヴァンパイア登録』をしたヴァンパイアに、国が定めるところの基準をもって、専門の知識を持った付添人を紹介しております。

 付添人は、吸血鬼に関する資格を持った、身元のしっかりした人物です。

 我々、協会は、所属するすべての人員が吸血鬼の『専門家』であります。


 市民の皆様、ご安心ください。我々はヴァンパイアの社会復帰をお手伝いしているとともに、すべてのヴァンパイアの動向を把握しております。

 ご家族やご友人がアンデットになったことでお悩みの方は、ぜひとも我々にご連絡ください。

 連絡がない場合でも、どのみちお宅へ伺うこととなります。”

(『全米ヴァンパイア・ハンター協会』のホームページより引用)


 上記の文には、なんというか、まあ。吸血鬼から見れば少しだけ「市民目線」のきらいがありますが、ヴァンパイア・ハンター協会の活動とは、要するに以上のようなものなのです。

 一度死んだヴァンパイアをまた殺すのをモットーにしていた時期があったかと思えば、だいぶマシといえるのではないでしょうか。


 彼らは高い戦闘能力を持った吸血鬼の『専門家』で、彼らの活動の目的は、『吸血鬼を社会から孤立させないこと』です。


 覚えてらっしゃる方がいるかと思いますが、吸血鬼登録のためには、彼らと面談をする必要があることを述べました(『吸血鬼と役所手続き 後編を参照』)。

 話し相手がいるというのは、たぶん、良いものなのでしょう。


 狩るものと狩られるもの。

 かつては深刻な争いを繰り広げていた吸血鬼とヴァンパイア・ハンターであったが、今やその様相はほとんどなりを潜めていると言っても良いのです。

吸血鬼だってヴァンパイア・ハンターになれる時代です。


 ヴァンパイア・ハンター協会は、ヴァンパイアに力の制御を教えてくれます。ヴァンパイアが何か悪さをするならば、それはヴァンパイアという種族のせいではなく、個人の責任であるというのが彼らの立場です。


 今や、ヴァンパイア・ハンター協会に属するものたちのことを、ヴァンパイア・ハンターと呼ぶのはもはや不適切でしょう。

 ヴァンパイア・コンパニオンだとか、ヴァンパイア・パートナーだとか呼称するべきだとは、ジェネシスさんのおっしゃる通り、私も常々考えていたところです。

 しかしながら、彼らの通り名である「ヴァンパイア・ハンター」といういささか威力をほのめかすような呼称が、今であれ我々の背筋をアイロンがけのようにピンと伸ばす効果があることも事実です。


 ヴァンパイア・ハンターは、ヴァンパイアが社会に溶け込めているか絶えず見守り、ときには人が抱くような、人らしからぬ暴力的な衝動に身を任せぬよう、常に我々とともにあるのです。


 とはいえ、一般人とは力の差がある吸血鬼である。どうしても力を発散しがたいときは、手合わせのようなこともしてくれます。

 この模擬試合での傷害は互いに免責されるが、金銭を賭けた場合は、ヴァンパイア・ハンターは協会員としての資格を停止されるそうです。


 私も一度すすめられたことはありますが、よくよく検討してみると、試合の詳細には「武器は問わない」という条項が盛り込まれていたため降伏しました。

 ジェネシスさんは、大型トレーラーで市民体育館にやってきました。私の判断は間違っていませんでした。一言だけ感想を申し上げておきますと、「ストリートファイター(※1)」は、通常、大型トレーラーには乗車しません。


 私の担当のコンパニオンであるジェネシスさんは、制度が始まって以来、私の3番目のヴァンパイア・コンパニオンです。

 1度目のコンパニオンはろくにうちへ来ませんでしたし、2度目のコンパニオンは、とても気さくで良い方でしたが、ドラッグと横領のかどでどこかへと飛ばされてしまったのです。

 もちろん、そのような付添人が少数であることはいうまでもありません。吸血鬼も少数です。


 ジェネシスさんは、とても落ち着いた慈悲深い方で、自分に対しても、他人に対しても、とても厳しい方でもあります。必要以上に個人のプライベートに立ち入ったりは致しませんが、とくに品のないジョークというのは大嫌いです。


 私がどんな内容の小説を書こうが、たとえそれが売れなかろうが、ヴァンパイア・ハンターは私に干渉することはありませんし、また、干渉するべきではありません。推理小説で連続36人殺した時も、協会はなにも言ってきませんでした(読まれていないのかもしれませんが)。

 むしろ、いかがわしい小説を書くようにそれとなく勧められるくらいです。誤解なきように申し上げますと、昇華はストレス解消の方法のひとつです。


 ただ、「ノンフィクション」の性質上、ジェネシスさんは私がストレスを感じており、暴力的な衝動にさいなまれるのではと心配していたようでした。

 要するに、私が必要以上に悪ぶっていないかどうかを心配していらっしゃるのです。

 幸いなことに、ジェネシスさんは大型トレーラーでうちにお越しになったので、私はそのような衝動を一切忘れることができました。

 私にとって、ジェネシスさんはまことに節制の象徴であります。


 私は、ジェネシスさんと初めて会ったとき、セイラムの魔女裁判について暖かい語らいを持ったことを覚えております。そのことを、今一度思い出される結果となりました。


『吸血鬼の職業』でも語った通り、吸血鬼にも、ヴァンパイア・ハンターになる道はあります。ただし、ヴァンパイアの付添人になれるのは、吸血鬼ではないヴァンパイア・ハンターであるのが望ましいというのが協会の公式見解です。

 必ずしも禁止されているわけではないが、男性の吸血鬼はお互いに争うものでもあるし、あまり良い関係は築けないものです。

 模擬試合の代理人としての出番があると勧められたが、誰が行くかそんなの。


 ヴァンパイア・ハンターになる道は、とても狭き門です。これは、試験が難しいからというわけではありません。吸血鬼の数は年々と減っており、協会の活動も縮小しているからです。

 吸血鬼の数は、およそ3万人と述べた。協会員は2,535人程度であります。

 これは、あくまでも登録している人数であって、実際に活動しているものはもう少し少ないと思われます。


 かつて、ヴァンパイア・ハンター協会がまだヴァンパイア・ハンター教会であったころ、『すべての吸血鬼を消滅させるまで、我々は活動を緩めることはない』という理念を掲げていた。ニュアンスを変えて、彼らは今もなお、同じ理念を掲げているのです。

『すべての吸血鬼が消滅するまで、我々は活動を緩めることはない』と。すなわち、吸血鬼とともに滅びる運命である。


 専業のヴァンパイア・ハンターというものは、50年ほどは存在しておりません。ほとんどは軍隊の特殊部隊を退いたものであったり、とにかく、副業的なものです。もはや、協会に所属している吸血鬼のほとんどは高齢者であります。


 吸血鬼にとって、いかにヴァンパイア・ハンターの存在が重要であるか、本稿でお分かりいただけたと思います。


 次号、『吸血鬼と節制のありかた――吸血鬼は何に祈るべきか、愛と信仰について』をお送りしようと思っていますが、気が変われば(ジェネシスさんから連絡がなければ)『吸血鬼とホラー映画』になる予定です。


(※1)……ジェネシスさん曰く、「ストリートファイター」というタイトルのゲームのことだそうです。別に私を大型トレーラーで轢き消そうとしたわけではなく、「車(廃車)を殴ればストレスが解消されるから」ということらしいです。ストリートファイターは知っていますが、私にはどのみち理解できません。

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