第六章   龍神   五

『終わり方としては最悪だな』

 初めてマウンドを降りた理由を打ち明けた時、父はバッサリと切り捨てた。

(俺の気持ちが分かってたまるか)と、正直思っていた。しかし、今なら分かる。

 突然降り掛かった火の粉を払う術もなく、志半ばで身を引かなければならぬ苦しみ。

 父の無念さは、いかほどのものだったか。

『罪なき罪』をずっと背負い続けていく孤独や辛さを知っているからこその、密かなる激励の言葉だったに違いない。

「父の子として生まれたことを誇りに思います。お話しして下さり、ありがとうございました」思わず、風神の背中越しに、深く頭を下げていた。

 再び風が立ち、辺りの淀んだ空気を一掃するように優しく吹き抜けていく。

「話は変わるが……このグラウンドに咲く十五本の桜の意味を知っているか?」

 桜に纏わる話は枚挙にいとまがない。此処に咲く桜には、どんなエピソードがあるのか気になった。

 見上げれば、これ以上のお膳立てはない、といった様相を呈した満開の桜が見下ろしていた。


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