第五章 風立ちぬ 五
翌日の日立製作所との試合は苦戦を強いられつつも二対一で勝利。最終日の住友金属鹿島との試合も、取って取られての手に汗握る接戦ながら六対五で勝利を収めた。
結果、第一代表に富士重。第二代表に日立製作所が、本戦に駒を進めた。
本戦出場が決まると、富士重工の本拠地である太田市内は徐々に熱を帯びていく。
『祝 都市対抗野球出場!』
と書かれた垂れ幕が市役所玄関を飾り、街のあちこちには応援メッセージが書かれた幟旗が立った。
社会人野球の日本一を決める都市対抗野球。一回戦は大会三日目の第一試合、三菱重工神戸との対戦だった。
梅雨まだ明けやらぬ七月十四日、鬱陶しい雨雲が厚く垂れ込める早朝。
大型バス十台を連ね、富士重社員をはじめ関連企業、太田市民らを乗せた一行が東京ドームに駆け付けた。
スタンドを埋め尽くす一万五千人の大応援団は圧巻で、選手たちの意気も上がる。
『来年は必ず俺が、このマウンドに立つ!』
巨人の守護神となって東京ドームのマウンドに立つ夢は破れた。しかし、社会人野球で遅咲きの夢を叶えるのも悪くない。
富士重先発のエース草津は二回に二点、本塁打を浴び先制を許した。
その後も毎回走者を出しての五回裏。二死満塁になると、確氷はピッチャーの交代を命じた。
リリーフの佐波は無失点に抑える好投を見せ、九回からは白井が一人の走者も出さない完璧投球で三菱打線を封じ込めた。
一方の富士重打線は七回まで快音が響かず、一安打止まり。ところが八回に突入すると、打順一番の松井田が内野安打を放ち、一気に流れが傾き始めた。四番の四万に続いて五番の安中が適時打を打ち、同点にまで漕ぎ着ける。
試合は延長戦に縺れ込み、白井に代わってベテランの万場がマウンドに上がった。
球威はそれほどでもない。が、抜群の制球力を武器に、打者の裏を掻くクレバーな投球が万場の真骨頂だった。
十回裏では三安打されながらも、丁寧な投球で決定打を許さず。十一回裏は三人でピシャリと抑えてベテランの意地を見せつけた。
劇的な展開を見せたのは十三回表。四番の四万が左中間本塁打で得点を決め、そのまま逃げ切り三対二で初戦突破を決めた。
応援席は狂喜乱舞の様相を呈し、富士重工のシンボルマークである『六連星』をデザインした、名物『スバル・ビッグフラッグ』が高らかと掲げられた。
翌日の毎日新聞には『都市対抗野球 疾風が烈風を撃墜す‼︎ 富士重工、三菱重工に勝利』との見出しが紙面を飾った。
第二次世界大戦時に中島飛行機(後の富士重)が疾風を、三菱が烈風を製造していた事象になぞらえ、両チームの闘い振りを戦闘機に見立てた記事だった。
勢いに乗って二回戦も、と行きたいところだった。だが相手は二連覇を狙うJR東日本。
手堅い守りと、ミスを突くしぶとい攻めで二点を勝ち越し、三対一で富士重をねじ伏せた。
『この雪辱は翌年に晴らす』
孝一は自らに固く誓いを立て、ベンチを温めるだけのもどかしい夏が過ぎていった。
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