ユーカリ13枚目 街へ行かねばならぬようだな……もしゃ
目覚めると既に深夜だった。
疲れていたのか、思った以上に寝てしまったようだ。
疲れといっても、いつもより体は動かしていない。昨晩はエルダートレント以外、倒していないんだもの。
久しぶりに人と接していたから気疲れしたんだな、たぶん。
動いていなかったからか、体力は全快そのもの。
もしゃもしゃ。
ユーカリの葉を食べながら、昨晩できなかったステータスのチェックを行う。
『名前:
種族:コアラ
レベル:61
スキル:有
魔法:有』
うお。レベルが結構上がったな。
さすがエリアボスといったところか。
『スキル一覧
ユーカリサーチ
ユーカリパワー
ステルス 熟練度 80.2
探索 熟練度 65.4
解剖学 熟練度 31.1
動物学 熟練度 64.1
罠 熟練度 0
魔法 熟練度 0
治療 熟練度 0
道具作成 熟練度 0
忍び足 熟練度 35.2
槍 熟練度 36.4』
スキルの熟練度は順調に上がってきている。
このままどこまで上がるのか分からないけど、ステルスと動物学に関してはこれ以上上がらなくても問題ないかな。
熟練度60を超えた頃から、スキル発動失敗が無くなったから。
スキル数を増やしていないのにも、俺なりの考えがある。
もしかしたら、取得スキル数に上限があるかもと思っててさ。何しろ全く説明がないから、いくつまでスキルを取得できるのかってことも分からない。
ひょっとしたら、上限なんて無いのかもしれないし、上限に達しても要らないスキルを消すことで新たなスキルを獲得できるのかもしれない。
だけど、不確かなことでここ一番の時にスキルを習得できない、となると困るから安全策を取っているってわけだ。
「トリアノンに聞いておくべきだったかなあ……」
彼女はベテランのバーサーカー……ではなくテイマーだったので、スキルシステムとかには詳しいんじゃないかと思ったりもした。
だけど、もし、レベルやらスキルシステムやらが「俺だけ」の仕様だったとしたら?
と考えたところで、彼女に聞くことを控えたんだよ。
俺個人としては、彼女は悪い人ではないと思う。
契約の事があったとはいえ、俺を害そうという気がないことは分かったし、裏表が無いのだなあと何となく察した。。
だけど、俺だけの秘密を彼女に打ち明けても大丈夫かと言うとうーんと首を捻ってしまう。
ずっと俺と行動を供にするなら話は別だが、彼女はのうき……単純明快な性格だからさ。
もし彼女が信頼できるとしても、ポロっと口を滑らすことは想像に難くない。
「過ぎたことに思いを巡らせても仕方ねえ。こういう時は気持ちを整理するためにもお茶だよな!」
えへへ。うふふ。
トリアノンとの邂逅で一番の収穫は、これだ。
じゃじゃーんと彼女から頂いた小さな缶を掲げる。
そうだよ。ユーカリ茶だ。
あの時飲んだ味を思い出すだけでも、顔がにやけて仕方ない。
さっそくコップにお湯を入れて飲もうじゃないか。
「コップに葉を……あ」
ここに来て重大な事実に気が付いてしまった。
コップが無い。
アイテムボックスに入っているのは、モンスターのドロップアイテムが多数と槍、そして愛すべきユーカリ茶とユーカリの葉だけだ。
いや、待てよ。
冒険者の遺物を漁ればコップくらいは手に入るかも?
しかし、お湯はどうする?
水はある。
だけど、火を起こせない。
それも、冒険者の遺物から火打石とか探すか?
うーん。
冒険者の遺物は滅多に見つからないんだよな……奇跡的に槍を拾えたものの、こいつだって半ばから折れているし……。
なら、冒険者を襲って奪うか?
ダメだ。
上手く冒険者から目的の物を奪えたとしても、俺が危険なモンスターとして討伐対象になっちまったらぬくぬくと生きてはいけなくなる。
それに、元人間として追いはぎのような真似をしたくはないんだよなあ。
「行くしかないか」
俺は不確実なことに時間をかけたくないのだ。
とにかく一刻も早くユーカリ茶が飲みたい。
街ならば、コップも火打石も手に入るはず。
ついでにスペルブックなるものも購入できれば……。トリアノンは魔法でお湯を出していたから、水を沸かす手間が省ける。
◇◇◇
街の名前はアルル・ド・モンジューとかいう洒落た名前だった。
街の規模は街の中を充分に探索したわけじゃないからよく分からないが、活気があって人も多い。
俺を呼び出した城も街の中にあり、あのふざけた二人もきっと城の中にいるんだろう……。
いや、何かしようってわけじゃあないけどな。
あいつらとはもう関わりたくないってのが正直なところ。
痛い目に合わせてやろうとか、そんな非生産的なことをするくらいならユーカリの葉を集めた方が有意義だ。
あいつらを痛めつけたところで、一枚たりともユーカリはゲットできないからな。
「って現実逃避をしている場合じゃねえか……何か手を打たねえと」
ああああ。
思い出したくもねえ。
昼間に目が冴えるように睡眠調整をして、ステルスと忍び足で街に忍び込んだまでは完璧だった。
露天でコップを見つけて買おうとしたところ、十軒中八軒は「奇怪な生物め!」と衛兵を呼ばれそうになり退散。
残り二軒は相手をしてくれたが、お金を持っていないってことで門前払いされてしまったのだ。
そうだよ。そうだったよ。
これまで完全サバイバル生活を送っていたからお金なんて当たり前のことが抜けていた?
そんなわけねえだろ!
いくら俺でもそこまで間抜けではない。
ユーカリ以外のドロップアイテムは俺にとってゴミだ。
ゴミと物々交換してコップをゲットしようとしたんだよなあ。
だけど、「ドロップアイテムはギルドで金に換えてこい」の一点張りでさ。
意外にしっかりしている商店の管理にビックリしたってわけだ。
「どうすりゃいいってんだよ。冒険者ギルドに侵入するには危険な気がするんだよな……」
◇◇◇
とか言いつつ冒険者ギルドまで来てしまった。
ユーカリ茶がどうしても諦めきれなくて……。全く罪な奴だよお前は。
鎧を着た衛兵じゃない人っぽい人の後をつけること三度目で冒険者ギルドに辿り着けたってわけさ。
我ならが機転が利くよなと自画自賛してしまった。
さて、来たはいいがノープランだ。
ひょっとしたら冒険者ギルドじゃあないかもしれない。まずは様子を探ってみよう。
ステルスと忍び足状態のまま、テクテクとギルドの中を歩く。
ギルドは石造りの重厚な建物で、高校の体育館より一回りくらい広いってところか。
二つのエリアに分かれていて、左側が依頼書やら受付やらがある本来のギルドとしてのエリア。
もう一つがお食事スペースだ。
真昼間だからか、ギルドの中は閑散としていて受付のお姉さんやおじさんは時折あくびをかみ殺している。
トリアノンがいてくれりゃあ何とかなりそうだけど……こんなことなら彼女と共に街に来ればよかった。
文句が口をついて出そうになり、慌てて口をつぐむ。
声を出すとステルスが解除されてしまうからな。
ギルドスペースは観察したが、特に得るものがなかった。
お次はレストランの方を見てみるか。
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