ウラガワヒロイズム

蒼樹里緒

プロローグ/おさなごころのヒロイズム

『正義の歌で悪に勝つ! 歌勝カショウ戦隊! ウタレンジャー!』


 わたしは、いつだって夢中だった。テレビに映ったヒーローたちの活躍に。

「ねぇ、おかあさん。ヒロトおじちゃん、ウタレッドにヘンシンしてるんだよね?」

「そうだよ。かっこいいでしょ?」

「うん!」

 お父さんの弟――広翔ヒロトおじちゃんは、〈歌勝戦隊ウタレンジャー〉のレッドになって、激しいアクションをかっこよくこなしていた。

 変身前のキャラを演じる俳優さんが、そのまま変身するわけじゃないんだって、小さいころにわかっちゃったけど。

 おじちゃんが悪者と戦ってくれてうれしい気持ちのほうが、ずっと強かったから。

 ウタレンジャーを毎週観るたびに、夢がむくむくふくらんでいった。

 ある時、わたしは両親にこう宣言した。

「マヒロも、おっきくなったら、おじちゃんみたいにハイパーセンタイのレッドになる!」

「そうか、真広マヒロはレッドになりたいのか。でも残念だなぁ」

「え?」

 困ったように笑ったお父さんが、ショッキングなことを告げた。


「女の子はね……レッドにはなれないんだよ」


 頭どころか、全身が雷に打たれたかと思った。

 信じたくなかった、そんなこと。

 泣きそうになりながら、わたしはお父さんにしがみついた。

「おとうさん、どうして? おんなのこは、レッドになっちゃいけないの?」

「広翔おじちゃんは、男の人だからレッドになれたんだよ。ハイパー戦隊シリーズでは、リーダーのレッドをやるのは男の人、って決まりがあるからね」

「そんなの、やだ! マヒロも、ぜーったいレッドになるんだもん!」

 駄々をこねるわたしを、お母さんも微笑ましそうに眺めていた。

「あらら、この子ったら……」

「ははっ、いいじゃないか。可能性は無限大だ。もしかしたら、女の子がレッドになれる未来だって、来るかもしれないしね」

 娘に残酷な事実をぶっちゃけたお父さんだったけど、こうも言ってくれた。

「真広。広翔おじちゃんのお仕事は、危ないこともたくさんあるんだよ。それでも、レッドになりたいって思うかい?」

「うん!」

 わたしは、とびっきりの笑顔でうなずいた。

 なにもしないうちからあきらめるなんて、絶対嫌だから。


「マヒロも、いーっぱいがんばって……おじちゃんみたいに、かっこいいヒーローになる!」


 それが、わたし――赤川アカガワ真広の〈夢〉の始まりだった。

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