学校一の美少女から求愛されている俺、頑なにクラスの地味属性ぼっち少女ばかり構い続ける

かごめごめ

〜prologue〜

お約束的プロローグ

 夏休みに入ってからというもの、由宇真ゆうま光里ひかりはつと三人で、毎日のように日が暮れるまで遊んでいた。


 その日はたまたま、初が家の用事で遊べなくなった。そうなれば自然と、光里と二人きりで遊ぶことになる。遊ばないなんて選択肢は由宇真にはなかったし、それは光里だって同じだろう。


 場所は夏休みのあいだも開放されている、小学校の校庭。夏休み前にもさんざん駆け回っていたというのに、飽きもせずにまた来てしまう。


 タイヤが半分地面に埋まった謎の遊具に、なにをするでもなく、ただ二人並んで腰かける。

 だいたいいつも三人一緒に行動していたから、こうして完全に二人きりになるのはかなり久々に感じる。


 いつもは元気で明るくてよくしゃべる光里が、今日はなぜだか、やけに口数が少なかった。なにか思い詰めているような、難しい顔をしている。


 光里がそんな顔をする理由……由宇真にはひとつ、思い当たることがあった。


 普段はそのことを考えないようにしていても、ふとした瞬間、切ない気持ちが押し寄せてくる。楽しく遊んでいるときでさえ、ふいに胸が締め付けられる。そんな感覚は、日を増すごとに大きくなっていった。


 夏が終わって、秋が来たら――光里は転校してしまう。

 そのことは、夏休み前に光里の口から直接聞いていた。


 当然、光里だって寂しいに決まっている。だから、こんなに落ちこんで――


「あのね! ゆうくん、聞いて!」


 唐突に身を乗り出した光里が、真剣な瞳でまっすぐに見つめてくる。


 どうしたんだろう、急に改まって。

 まさか……転校が早まった? それとも……今日でもうお別れ、とか?


 嫌な予感が一気に膨らんで、心臓がバクバクと暴れだす。

 だけど、耳を塞ぐわけにはいかない。大切な友達の大切な話なら、ちゃんと聞かないと。


 由宇真が覚悟を決めるのと同時に、光里は言った。


「わたしっ! ゆうくんのことが、大好きっ!」


 ……えっ?

 予想していたのとは全然違う内容に、拍子抜けしてしまう。

 転校の話じゃなかったんだ。


 でも……どうしたんだろう、急に。

 大好き、って……。


 そんなこと今さら言わなくてもわかっていたし、当然、由宇真も光里のことが大好きだった。だからこそ、こうして友達になっているわけで。


 ――だけど、そうじゃなかった。

 全然わかってなんかいなかった。

 次に発した光里の言葉で、由宇真は――それを思い知る。



「いつか、わたしたちがおとなになったら、わたしと結婚してください!」



 その瞬間、さっきまでの不安な気持ちも、抱いていた疑問も、すべてが跡形もなく消え去った。

 代わりに湧き起こったのは――ただただ、うれしいという気持ちだった。

 うれしい。その感情一色に、それ以外のあらゆるものが塗り潰される。


 そして同時に、ひとつのことを理解する。


 ずっと不思議に思っていた。

 どうしてこんなに光里のことが好きなんだろう、と。初のことも大好きだけど、光里に対して感じるのはそれだけじゃなくて、どこか愛おしいような、光里にだけしか感じない、言葉にできない特別ななにかがあった。


 ようやく、わかった。


 これが……

 この気持ちが……恋なんだ。


 理解した瞬間、由宇真は光里の肩を掴んで、大きくうなずいていた。


「うんっ! 結婚しようっ、光里!」


 光里の顔に、花が咲くみたいに、ぱあっと笑みが広がった。

 そこには、さっきまでの思い詰めた表情は、もうない。


「ほんと!? ぜったいだよ! 約束!」

「うん、約束!」


 小学二年生の夏。

 由宇真は誰よりも大切な初恋の女の子と、将来を誓い合った。

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