居ないと言ってよ誰か~!

 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



「あは~。お久し~ぶりだぞ~。旦那ちゃ~ん」

「良し捕まえた」

「ほえ?」


 ちょっと気になったことがあったのでノイエの耳元で『シュシュ。シュシュ。シュシュ。シュシュ……』と嫌がらせのように呟いていたらシュシュが出て来た。

 いつも通りに黄色くてフワフワしている。が、速攻で抱きしめて確保した。


 そのまま抱きしめてベッドの上に倒れ込む。

 腕の中のシュシュは静かな物で、僕のことを不思議そうな目で見つめている。


「ちょっと旦那君?」


 フワっていなシュシュは口調も普通になる。故に捕まえていた方が会話がスムーズになるのだ。

不便だけどそこが彼女らしくて愛らしい。


「では早速」

「あれ? 旦那様? あれ~?」


 早速美味しく頂いてみた。




「ぶ~。だぞ~」

「はいはい」


 拗ねて頬を膨らませたシュシュが僕の腕の中で暴れている。

 ポカポカと胸を叩いて来るけど本気ではないから痛くもない。ただの拗ねてますポーズだ。


「怒ってるんだぞ」

「でもシュシュだって喜んでたでしょ?」

「……いきなりはダメだぞ。私だって雰囲気は気にするんだから」

「そうだね」


 優しく相手を抱きしめて額にキスをする。

 ノイエの姿をしているだけで今の彼女はシュシュだ。だから表情も豊かで……本当に可愛らしい。


「額だけ?」

「何処が良い?」

「気づいて欲しいぞ」

「なら」


 両方の頬にキスをしてからゆっくりと唇を奪う。

 ポウッと顔を赤くしたシュシュが僕に抱き着いて来た。


「やっぱり順番が逆だぞ」

「あはは。ならもう一回する?」

「疲れたから嫌だぞ」


 シュシュはノイエの姉たちの中で回数を求めないタイプだ。だから一回の密度を濃くしないと怒るんだけど……今日はわざと色々と手順を飛ばしてみた。

 だってこの気分屋は事が済むと、『疲れたぞ~』とか言って帰ってしまうパターンが多い。それを回避するには燃焼させて火種が残る程度が良いと判断した。今のところは完璧だ。


 拗ねモードから甘えん坊モードとなったシュシュに時折キスをして相手の気分を良くする。


「今日の旦那ちゃんは普段と違うぞ?」

「そう?」

「何か企んでいるぞ?」


 機嫌が良さそうだけどシュシュがこっちを疑って来た。

 これも覚悟の上だ。だから相手の唇をキスで塞いで……驚いた表情のシュシュが蕩けた。


「何だぞ? ズルいぞ?」

「うん。今日の僕はズルい子なのです」

「何を企んで、あむっ」


 何度でもキスをする。

 頑張ってし続けていたらモジモジとしたシュシュが甘えて来た。


「旦那君」

「な~に?」

「……馬鹿」


 シュシュからキスして抱き着いて来る。完全に発情しているな?

 だがまだだ! まだ僕は心を鬼にして君を焦らすのだよ!


「ねえシュシュ」

「何だぞ?」


 必死に僕の腕から逃れ、攻撃に転じたがっているシュシュの耳元に唇を寄せる。


「1つだけ教えて」

「何をだぞ?」

「教えてくれたら今日は何でもシュシュのしたい放題ってことで?」

「……ズルいぞ」


 頬を膨らませてシュシュが拗ねる。でも膨らんだ頬を赤いままだ。


「ダメ?」

「……内容次第だぞ」

「難しくはないよ?」

「それを判断するのは、あむっ」


 ほれほれ。酸欠になって思考能力を低下させてしまえ。


「……答えられないこともあるぞ? 特にアイルローゼに知られたら融かされるようなことは嫌だぞ?」

「それはたぶん大丈夫」

「本当かだぞ? 視線を逸らすのはダメだぞ?」


 軽く視線を逸らしたらシュシュが僕の首元に噛みついて来た。もちろん甘噛みだ。

 ちょっとだけ心配になっただけです。流石にシュシュを融かすほどの質問では無いと思う。


「……言ってみると良いぞ?」

「聞いて答えてくれるなら」

「……ズルいぞ。だから答え、あむっ」


 まだ思考能力が残っているのか?


「……答えられない内容だったら口を閉じるぞ。それでも、あむっ」


 まだだ。もっと酸欠になれ。馬鹿になるのだシュシュよ。


「もう言って欲しいぞ」

「うん」


 勝負!


「ノイエの魔眼って何人居るの?」

「……」


 口を閉じる気か? そんな子は抱きしめてキスの刑です。逃がさんぞシュシュ!


「あむっ! 落ち着くんだぞっ! 違う、あむっ! ……数えられないぞっ!」

「いたっ」


 激怒したシュシュに噛みつかれた。左腕にうっすらと歯形が。

 酷いんだぞシュシュ。というか僕への直接攻撃無効的なルールはどこに消えた。


「ん~。全部で……あれは数えるのかだぞ?」

「とりあえず施設関係者全員で」

「なら49人だぞ」


 マジか? それに刻印の魔女もでしょ?


「と言うか……あの日の関係者の約4割か」

「そっちの詳しい話は知らないぞ」


 シュシュはそう言うと自分が嚙みついた僕の腕をペロペロと舐めだした。

 その姿が可愛いからそのままにしておこう。


 一番の問題はノイエの姉……兄も居るのだろうがその数だ。

 思っていた以上に居た。僕としては30人に届かないくらいであって欲しかったのだが。


 ただ最近色々と姿を現しているから探ってみたが……まさかの4割かよ。

 限定するのが難しくなった。というか厄介な人物がまだまだいっぱい?


「まさかと思うけど……」


 恐る恐るシュシュの耳に唇を寄せて質問してみる。

 ジロッと睨んで来たシュシュは答えてくれないか?


「全員は居ないぞ。でも何人か居るぞ」

「マジか! 誰が、あむっ」


 シュシュの唇で口を塞がれた。


「もう教えないぞ。今のだって危ないぞ。もし歌姫がアイルローゼに告げ口でもしたり、アイルローゼたちが外の様子を見ていたら、あむっ」


 仕返しにキスで口を塞いでやった。


「大丈夫です。セシリーンは告げ口したりしませんし、先生はこの程度なら怒りません」

「……グローディアが怒るぞ」


 上等だ。


「あの胸無しは次に会ったらあのツルツルの表面で包丁を研いでやろうと思っていた。どうせ平らなら包丁の研ぎ石ぐらいの仕事をしろと言いたい」

「ダメだぞ旦那様! そんなことを言ったらグローディアが激怒するぞ!」

「煩い。そもそもあれの馬鹿のおかげで僕が色々と苦労しているんだ。一回出て来て土下座しろと言いたい。もちろん僕はその頭を全力で踏みつけてやるけどな!」

「旦那君っ!」


 慌てたシュシュが僕の口を塞ぐ。


 大丈夫だ。もし出てきたらあの馬鹿は今度こそ迎え撃つ。絶望が何であるのかをその身に叩き込んでやる。


「……大丈夫みたいだぞ」


 しばらくシュシュに口を塞がれていたがあの馬鹿が出て来る気配は無い。

 不安げに宝玉を見つめていたシュシュの頬を両手で挟んでこっちに視線を向けさせた。


「さてシュシュさん」

「何だぞ?」

「うん」


 問題が発生した。大問題だ。


「君をその気にさせようとしたら僕がその気になってしまったわけです」

「……」


 キョトンとした感じでシュシュが僕を見る。

 な~に簡単なことだよ。本当に簡単なことです。


「いただきます」

「だから雰囲気を、あむっ」




 終わってからシュシュに怒られ、寝て起きてからノイエに拗ねられた。


 何故か知らないが起きてからノイエがずっと僕に背を向けて不満げなのだ。

 まあ彼女を背中から抱きしめてずっと『ノイエ大好き』と言い続けていたら……しばらくしてノイエの機嫌は戻ったけどね。


 それは良いとして僕が思うの最大級の問題児って誰が居るのよ?

 まさかあれは居ないよね? 居ないと言ってよ誰か~!




~あとがき~


 ノイエの中の人たちって…その数出したことあったっけ?

 施設関係者は49人です。それに刻印さんとノーフェが居るので計51人です。

 流石に全員は出しませんけどね。


 グローディアたちは魔眼の秘密が明るみになることを嫌います。

 自分たちにピンチが及ぶことよりもノイエが困る事態になる方が嫌だからです。

 だからアルグスタが相手でもあまり言わせないようにしています。


 そろそろ従姉対従弟の壮絶な殺し合いが始まりそうだなw




© 2022 甲斐八雲

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