この弾力がたまらなく良い

 ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室



「流石にこんな紙切れ1枚で遅刻とか何様ですか?」

「元王子の上級貴族様だね」

「……もう嫌だ。こんな職場」


 泣き出したクレアが机の下へと姿を隠す。

 ちゃんと遅刻すると伝えて来ただけ褒めて欲しい。


「甘い」

「それは良かった」

「これも食べて良いの?」

「好きなだけ食べなさい」

「うん」


 両手にケーキを持ったリグがモリモリと食し続けている。

 治療で疲れたこともあって糖分を欲しているらしい。


 このままケーキを与え続けるとリグの胸が膨らむと言う。ちょっと実験したくなるが、リグが言うには『生活するのに不便だからもう大きくならないで欲しい』とのことだ。

 巨乳も巨乳で大変なのね。


「ポーラ。お茶……って居ないんだった」


 いつもの癖で呼んでから思い出す。

 ポーラは先生の所に預けて来た。現在はリリアンナさんの隣のベッドでお休み中だ。

 問題はお城に使いっ走りをして戻って来たミネルバさんがベッドで休むポーラを見てこの世の終わりみたいな表情を浮かべていた。両膝から床に崩れ落ちて……それから部屋の隅に移動して膝を抱えて反省モードに移行した。


『置いて行くんですか?』と不満げなリリアンナさんをスルーし、病んでる人を病院に預けて僕らはお城へとやって来た。病んでいるのだから置いて来て問題無いはずだ。問題があるとすれば精神的なあれ~な病み方だと言うことぐらいか。


 今日も今日とて机の上には書類仕事が山盛りだ。そろそろ僕らのキャパを越えている。

 クレアやイネル君などほぼ休みがない。ここはブラック企業か?


「リグ~」

「なに?」


 部屋付きのメイドさんに紅茶を頼み僕はケーキを食べて幸せそうな表情を浮かべるリグを見た。


「ウチのクレアさんの所に中々子宝さんが来ないらしいんだけど何か良い方法はない?」

「……頑張れ」

「それ以外でだと?」


 汚れた手を拭きながらリグがこっちを睨んでくる。

『なんて質問をするの』と言いたげな巨乳医者は何を言いたのだ? それが君の仕事だろう?


「排卵日を確認して的確に頑張る」

「だってさ」


 ただこの世界には体温計とか無いから……あれって計って何を調べるのかな?

 復活して椅子に座り直していたクレアがまた滑るようにして机の下へと消えた。


「それ以外だと?」

「排卵していれば後は運かな。そっちの研究はあまり進んでいないんだ」

「どうして?」

「ダメなら女性を変えれば良いから」


 ニョキっと頭を机の下から生やしたクレアが今にも泣き出しそうな顔を。

 あのクレアが大好き過ぎて男を見せたイネル君が子供が出来ないぐらいであれを見捨てるとは思えない。最悪は側室を得るか、養子を得れば万事解決だ。


「それってもし男性に欠陥があったら?」


 僕の問いにリグが軽く肩を竦める。


「……男性には欠陥が無いのが通説だよ。もし出来ないのなら女性が悪いんだ」

「うむ。そんな馬鹿げた話があるか!」


 無精子症とかだったらどうする? 男性に欠陥は無いって何さ!


「はて? その理由だと我が家も周りから良くない目で見られているかも?」

「……ノイエは出来ない理由がはっきりしているからね」


 はっきりしているけれど世間的には発表できない内容である。


「まあノイエは僕が必ず妊娠させるから問題無いんだけどね。問題はそっちのお漏らし娘だ」

「最近はしてないから!」

「気にするな。寝ててやってないなら許す」


 どうしてクレアが沈んで行ったのかは聞かないでおこう。


「まあせっかくの機会だリグ」

「なに?」

「あの馬鹿の診察しておいて。ウチでだいぶ酷使しているからちょっと心配なんだよね」

「分かった」


 ソファーから立ち上がり、リグが真っ直ぐクレアの元へ。


「ちょっと待ってください。ここで!」

「大丈夫。スカートで隠れるから」

「隠れるからって! ちょっとそんな場所を……あっあ~!」


 艶めかしいとは程遠い声が響いて……こんなクレアを抱けるイネル君ってば本当に凄いと思うわ。


 しばらくリグの診察が続いていると、書類の山を抱えたイネル君が帰って来た。

『こんな姿を見ないで~』と泣き叫ぶクレアに大興奮できるイネル君はやはり特殊性癖の持ち主なのだろう。


 リグの診察の結果、クレアに問題は無いらしい。

 しいて言えば、疲労の蓄積が半端ないそうなので少し休んだ方が良い言われた。


「働かせすぎ」

「うむ。何も言えない」


 自覚があるだけに言い聞かせないのだよ。


「ボチボチ最終兵器を召喚しようかと考えています」

「……ホリー?」

「あの御方の名前は決して口にしてはいけないのです!」


 呼んだらそのまま出て来そうで怖い。

 最近本当に静かなだけに凄く怖いんです。家庭内害虫のようにこっそりと姿を現して襲い掛かって来ないかと……本当に怖いのです。


「それで妊娠しないのは?」

「おかしなところは見えないから頑張れ」

「だってさ~」


 そう若い夫婦に伝えて、僕らは真面目に仕事をするのでした。




 ユニバンス王国・王都内下町



「ポーラは寝てる?」

「私が運びます」

「おおう」


 夕方にポーラを回収しに向かうとミネルバさんが臨戦状態で待ち構えていた。

 優しく抱きかかえて『この子に触れれば殺す』的なオーラを出している。

 貴女が抱えている娘は僕の妹なんですけどね。知っていますか?


 宝物でも輸送するかのようにミネルバさんが馬車の中にポーラを入れる。普段ならノイエが寝ているポジションにポーラを横にして、ノイエが来たら何処に座るだろう?


「まあリグが居るから大丈夫か」

「あの治療はお義父さんだけの技術だけどね」

「そうなの?」


 僕らも馬車に乗りミネルバさんは御者席へ。

 診察所の窓から魍魎のように這い出そうとしているリリアンナさんはスルーする。そのガッツは別の所で披露しなさい。

 先生とナーファは明日に向けて道具の洗浄や薬作りで忙しいので出て来ていない。


 屋敷に帰ろうと思ったら馬車の戸が開いた。ノイエだ。

 仕事を終えたノイエがこっちに来た。


「……邪魔」


 馬車に入ったノイエさんは妹の足を掴んで、スト~ップ!


「ちょっと待ちねえノイエさん!」

「なに?」

「ポーラは治療をして腕を怪我しているから」


 言ってて意味が分からない。治療したのに怪我しているって何? それって治療してないよね?

 でもノイエはそ言葉を理解したのか掴んでいたポーラの足から手を放す。


「怪我?」

「治療をしてね」

「……」


 クルンとアホ毛を回してノイエはリグを見た。


「治して」

「治ってる途中」

「早く」

「無理」

「どうして」


 我が儘モードのノイエにリグがため息を吐く。


「お義父さんだけの技術。きっと娘に対して自慢したくなった」

「迷惑」

「そうだね」


 リグとノイエが意思疎通しているよ。

 何より自慢の為にポーラの腕を砕いたのか?


「あの糞親父……やるか?」


 きっとミネルバさんに指示すれば喜んでやってくれるはずだ。サクッと暗殺を。


「止めて。あれでもボクのお義父さんだから」

「残念な親を持って大変だね~」

「昔からだからもう慣れた」


 ノイエはポーラの横に寝て彼女の腕を巻き込まないように抱きしめていた。

 普段意外とポーラに塩対応な癖にこんな時のノイエはちゃんとお姉ちゃんをする。

 可愛い妹を大切にしているんだな。


「むう」

「どうした?」


 ポーラを抱くノイエが不満げな声を。


「感触が悪い。お姉ちゃんが良い」


 スカスカと空振りをするノイエの手は何を掴みたいのだろうか?


「分かった。なら代わりに僕がリグを抱きしめよう」

「ちょっと」

「むう」

「この弾力がたまらなく良い」

「揉まないで」

「むぅ」


 ポヨンポヨンとリグの感触が物凄い。

 ただまたノイエが拗ねだすので、こんなこともあろうかと今夜は僕は完璧さ!


「リグに良い物を食べさせようと思って今夜のご飯は贅沢仕様なんだけど?」

「……我慢する」


 色々な何かを飲み込んでノイエがポーラを抱いて我慢を選んだ。

 そう。僕はリグにお腹いっぱい食べさせると決めている。


 だって彼女は明日帰れば……頑張れリグ。ファシーは話せば通じるかもよ?




~あとがき~


 クレアが…と言うよりもこの世界の妊娠率は低めです。

 一番の原因は栄養不足かな? クレアの場合は偏食とかもあってそれが成長に出ていますしね。

 つまり月のあれも不規則で妊娠しにくい体質なんです。運が良ければ出来るでしょうけど。


 普段ポーラに対して塩対応なノイエですが、妹は大切にするってことぐらい理解しています。

 怪我をした妹がいれば自分が姉たちにされたようにちゃんと振る舞えるのです




© 2022 甲斐八雲

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